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「奇特な病院2」どこか冷めている科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第20外来:どこか冷めている科(患者 徳島やまと)

 ダンスをしていて、そりゃもう人の倍、練習もしているし、努力もしているつもりだ。
 だけど、周りからの評価も、大会でも結果が出ない。
 悩んでいても、どこか冷めているように見えるらしい。
 母親は言った。
「あんたは、高校の中でも、どこにいても、一番になろうという気迫が足りないのよ」
 そんなことはないと自分で思っていたけど、ここまでやったのだから、結果はどうでもいいというか。伝わることを求めていないというか。
 これだけ努力しているのに、必死に何かを求めたことはないような気がする。
 どうやったら伝わるのか。
 何かを変えれば伝わるものなのか。
 母親が、それでも珍しく俺が悩んでいると思ったらしく、ある病院を見つけてきた。
「あんたにぴったりだと思うのよ。どこか冷めている科だって」
 俺は、初めて自分から救いを求めた。
 今まで友達や女性から、
「冷めているね」
 と言われ慣れている。
 待合室でも、別に、冷めたままでもいいかと考え始めた。
 診察室に入り、先生の顔を見て口から出た言葉は、
「どこか冷めているって俺のどこですか?」
 と聞いた。先生は言った。
「全部なんじゃない?」
 と冷めたように言った。この先生、俺と同類だ、きっと。
「俺を頼ってきたの?」
「そうですけど」
「そんなに役に立たないかもよ」
「そんなことあるんですか?」
「まっ、そうだね」
 俺は少しがっかりしてうつむいた。
「それでさ、一つ、聞いたいなと思ったんだけど、冷めてるって言われ慣れてると思うけど、何をきっかけに変えようと思ったの」
「えっ?」
「変えたいと思ったきっかけさ」
 この先生、冷めているけど、鋭い。
「同級生を好きになりました」
 俺の顔は赤くなったと思う。人前で初めてだ。
「ああ、そうか。うまくいくといいね」
 先生は、その後、俺の話を冷めた調子で淡々と聞いてくれてた。
 俺は、この先生と気が合うらしい。
 途中で、俺に恋愛話されても力になれないなって先生に冷めたように言われたときには、さすがの俺も笑ったけどな。でも、ちゃんと仕事はする人らしく、俺のどこか冷めた思いもちゃんと受け止めてくれた。
 最後に先生はクールに言った。

「お大事に」

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