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「奇特な病院2」どこまでが私事科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第8外来:どこまでが私事科(患者 楠田民代)

「どこまでがわたくしごと科と言います。他人のことと自分のことの区別がつけにくい人をターゲットに、私が考えた科です。どうか少しでも、他人事を抱え込みそうになった。自分のことをすべて知られるのが嫌だなどの悩みをお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非、ご予約を。」(担当医 工藤なみ)と書かれた広告を目にした。
 私には関係ないかと一瞬、思ったけども、他人事を抱え込みそうになったという一文に惹かれ、興味本位で予約をした。
 私には、相談できるひとがいないから。
 周りの誰かに相談すれば、それなりに答えてくれる人はいるのかもしれないけど、私はプライドが高いから、誰かに弱みを見せたくなかった。
 奇特な病院に着くと、一番奥にひっそりと、どこまでが私事科があった。
 待合室も他の科に比べて、待っている人も少ない。
 大丈夫なのかしら。そもそもお医者さんが、自分で広告を出すなんて人気はないのかもしれないわ。
 受付を済ませると、すぐに名前を呼ばれて、診察室に入った。
「どうされました?」
 先生が、明るく言った。
「どうしたのでしょう」
 私は、正直に答えた。自分でもここに来た理由がわからないと。
「どこでこの科をお知りになりましたか?」
「広告を見たんです」
「どこが気になって予約してくださったのですか?」
「他人の悩みを抱えすぎてしまって、つらくなってしまうことがあるものですから。どこまで私は、その他人の悩みに関わればいいのかわからなくなってしまったので、もしかしたらこの科で悩みを解決できるかと思ったのです」
「ここの科にぴったりの悩みです」
 にこっと先生は笑った。
「どうすればいいのでしょうか?」
「一回ちゃんとここからは自分で処理できる感情、ここからは、どうにもできない感情というのを線引きしていきましょう」
「そうですね。私もそう思います。私には、相談する相手もいなくて」
「なおさら、この科はうってつけですね」
 そう先生は、また笑った。
 私もなぜかほっとして、笑った。
 散々、他人の文句だか、愚痴だかわからない話を続けて、そのたびに、先生は、
「それは、あなたの責任じゃありません」
 などのアドバイスをしてくれた。
 私は、診察が終わると、すっきりして、また来ようと思った。
 先生は、いっぱい話を聞いてくれた後で、最後に大きな声で言った。

「お大事に」

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