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「奇特な病院2」あったまる科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第30外来:あったまる科(患者 堀川にい)

 職場での出世争い、誰かを陥れて、自分が上に上がる。
 損をしないように、自分だけが得をするように、誰かを陥れる。
 友達とは、どっちが幸せかと比べたがる。ブランド品の数で勝負が決まる。
 町でぶつかっても、「ごめんなさい」もない世界。
 戦争も終わる気配を見せない。
 地震も台風もいつ来るかわからない。
 何のためにこの世界を生きているのかわからない。
 殺伐としすぎている。
 なぜ楽しいことを求めるべきなのに、こんなに優しさがないのだろう。
 優しい人は、悲鳴を上げているような世界。
 すっごく心が寒い。
 そんなときに、「あったまる科」のことを知った。
 なんてキュートなネーミングと心惹かれた。
 「あったまる科」で、あたたまれなかったら、その後どうしようかしらと思ったけど、あまりに私は凍えていたから、あたためてもらおうと思った。
 待合室で待っていると、看護師さんに話しかけられた。
「お昼食べた?」
「まだです。終わったら、食べようと思って」
「あっ、ちょうどいいわ。梅がいい?鮭がいい?」
「えっ?」
「おにぎりは嫌い?」
「好きです」
「じゃ、梅がいい?鮭がいい?」
「梅がいいです」
「はい。梅ね」
 と差し出されたバスケットボール級のおにぎりの大きさに笑ってしまった。
「大きかった?」
「ええ。とても」
「いっぱい食べるのよ。痩せているようだから」
 と看護師さんは言った。
 診察室に入ると、先生は、にこやかに言った。
「保坂さんにおにぎりもらったんだって?」
「はい。とても大きな」
 先生とは、他愛のない話をして、なんか私は、自分の住んでる世界の狭さを実感した。
 先生と保坂さんは最後に笑顔で言ってくれた。

「お大事に」

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