「奇特な病院」平和を求める科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第33外来:平和を求める科(担当医 村上亮)
世界の平和、家庭の平和、多くの人が平和であれと願っている。
では、実際どうなのか。
願うだけではそうそう現実はうまくいかないようだ。
平和には、小さな平和と大きな平和があることに、この科を担当して気づいた。
小さな平和とは、自分の家庭や自分の周りの人との生活の中にある。
誰かの機嫌が直ったとか、周りの誰かに優しくされたとか、自分の手の届く範囲だけの平和を重視しているのが、小さな平和を求める人だと思う。
それとは違って、もっと大きな平和がある。
世界で戦争が起きませんようにとか、飢えに苦しむ人に平和が訪れますようになどテレビのニュースで真っ先に取り上げられるたぐいの平和が、大きな平和にあたる。
望むものが、世界平和だと言う患者さんもこられる。
小さな平和も大きな平和も同時に成立はなかなかしないようだ。
自分の幸せを望むと、どうしても不幸になる人がいたりする。
大きな平和は、小さな平和の先にはないようだ。
どこかで犠牲となる人が出てきてしまうし、自分の利益を優先すると、大きな平和が乱される。
「平和になってほしいです」
俺もなってほしい。
俺は、患者さんに訊ねる。
「どんな平和を想像しますか?」
患者さんの中でも即答できる人は少ない。
自分の幸せを優先する人だけでは、永遠に大きな平和は訪れない。
でも、自分の幸せをないがしろにしてしまっては、小さな平和が失われてしまう。
だから、俺は、患者さんにこう言う。
「人と人は違っていて、当たり前なのだから、すべてが思い通りに動くということは、ほとんどありません。それをわかった上で、自分でどの未来を選択するか見つけていく以外に、平和になることはありません」
患者さんの中には、そう言うと不満げな人もおられる。
平和を求めにこの科に来ているのに、全く解決にならないと。
俺は、そんなとき、ただ相手の目を真剣な目で見つめる。
それでも俺は、こう思う。
「きっと世界は平和がいいに決まってる。小さかろうと、大きかろうと」
患者さんの心の平和を俺は願っている。
どんなときも。
どうかお大事に。
(第34外来は、外面科です)
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