「奇特な病院」あったまる科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第30外来:あったまる科(担当医 星沢新平)
ちょっとした僕の思い込みだけど、あたたかみを演出するために、少し太めの女性の看護師さんを意識的に採用させていただいている。
偏見だと言われようとも。
なんとなくいつでもぎゅっと抱きしめてくれそうな人とこの科で働きたかった。
「今日も大きいおにぎり食べた?」
と患者さんに僕が指示しなくても、自主的に話しかけてくれている。僕だけでは、手が回らないから、とても助かっている。そんな看護師さんの姿にも心があたたまる。
「いや~」
なんて答える患者さんに
「ほら、これを食べなさい」
なんて手作りの梅のおにぎりを差し出していることもある。それはやりすぎかもしれないが。
人の優しさに飢えている人が多い中、人のために動くのが苦ではない人がこの世の中を少し平和にしているのかもしれない。
ほんのささいな優しさに心があたためられる。
ただ目の前にいる人を幸せにしたい。それでいい。
そう思われている存在だと実感できるだけで、心の奥がじんわりとあたたまる。
一緒に時間を過ごせるだけで、安心する。
「おいしーものたべよー、餃子好きでしょー」
「たくさんあるよ、作りすぎたから」
患者さんだけではなく、僕自身もたくさん助けられている。
看護師の保坂さんのおかげで、この科は大繁盛だ。
「あったまる科?」
「そうなんです」
「ストーブがあるんですか?」
なんてバカにされながら、それでも僕にはこの科を運営していく信念がある。
利害関係なしに、ほっとして、人と話すことで、あたたかな気持ちになることが人生においてとても大事だという信念だ。
殺伐した世界で生きる人も多い。
そんな人にはこの科をどうか知ってほしい。
「ここには、あなたの心があたたまることを待ってる人がいる」
それだけ伝わればいいと思っている。
保坂さんの作ったおいしい梅おにぎりもあなたを待ってる。
受診しない手はないですよね?
お大事に。
(第31外来は、本音が言えない科です)
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