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「奇特な病院」今年にかけたい科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第44外来:今年にかけたい科(担当医 渡辺洋二)

 最近、奇特な病院内に、不穏な空気が流れている。
 それまで各科の間では、多少の交流があったのだが、どうも整理整頓科の須藤先生が、人気のない科をいよいよ廃止にしようと動いているという噂が流れてから、各先生や看護師さんたちの仲が、ギスギスし始めた。
「とにかく結果を出せ」
 この科に来る患者さんが、よく言われて悩んでおられる言葉だ。
 まさに僕にもその言葉が向けられている状況になってしまった。
 人の面倒の話を聞いている場合じゃない、のかもしれない。
 だけど、私は、結果を出すことも大事だけども、せっかく僕を選んで、僕を頼ってくるのだから、ここにやってこられる患者さんの声に耳を傾けたい。
 僕の状況が逆境にあろうとも。
 今年にかけたい科には、若い人たちもやってくる。
 大学受験、夢など、早く叶えたいと思って、すがるように僕のところへやってくる。
「猶予は、あと一年。それまでに漫画家になれなければ、実家に帰って、家業を継ぎなさい」
 そう言われる若者も多い。
 だけど、僕は、あえてこう言う。
「今年の結果ももちろん大事だろうけども、それで諦められることなのですか?」
 そう言われた患者さんは、しばし考える。
 僕は続ける。
「今年にかけたいと思うことは、来年もかけたいことですか?」
 とても大事なことだと思う。
 何か結果が出ることも、本当に結果が出れば嬉しいし、もちろん周りにも認められることになると思う。結果は、免罪符となる。
 だけど、そこから始まる人生を、大切にして欲しい。
 僕も、この科がなくならないように頑張るから、あなたも。
 もしかしたら、僕の力が足りなくて、来年、この科がなくても、あなたには、大切なことを見つけて欲しい。
 院長には、今年にかけたい科を作りたいと言ったとき、こう言われた。
「人を応援したいのですね」
 僕は、答えた。
「頑張る人は、偉いと伝えたいのです」
「そうですか」
 院長は、笑った。僕は、それを見て、自信を持った。
 どうか今年、頑張ることは大事だと思いますが、そのために身体を壊すことなどありませんように。
 頑張る人には、良い結果が出ますように。

 お大事に。

(第45外来は、作業効率科です)

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