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「奇特な病院2」平和を求める科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第33外来:平和を求める科(患者 村瀬なるせ)

 誰が傷つけたとか、どう傷ついたとか言い出す気はないけども。
 論理的に正しいことを繰り返すと、どうも解決は遠いんだなと大人になってわかってきて、どっちが先に何かをしたと言い出したら、和解の道は果てしなく遠い。
 それは、あなたが正しいと言い切れることは少ないと、学校の先生は言った。
 私は反論した。
「そりゃ先に手を出した方が悪いに決まってる」
 とけんかを始めたクラスメイトを私は、真っ向から非難した。
 だけど、学校の先生は先に手を出した子をかばって言った。
「やられるからには、その人にも非があったんでしょ」
 私は、この先生とは話ができないと思った。
「話し合いをしましょう」
 と学校の先生は言ったけど、私は白けていた。
 そんなことは今でもたくさんある。
 自分だけが正しいことをしているとは思わない。
 だけど、本当の和解ってどういうものなんだろうと疑問に思わずにはいられない。
 8月になり、平和を求める科というのがテレビで取り上げられていた。
 どうも頼りない先生だった。
 だけど、
「患者さんの心の平和を願っている」
 という言葉の真意を確かめたくて、予約した。
 診察室に入ると、先生の顔も確認せずに、
「平和というものに対してどうお考えですか?」
 と質問した。
 すると、沈黙が訪れた。
 やっぱりこの人も本気で平和を求めているわけではなく、口だけなんだわと思った。
 そして、ゆっくり先生は口を開いた。
「何か怒っていますか?」
 そう言われれば、私はずっと何かに怒っている。
 続けて先生は、諭すように言った。
「平和とは、それぞれだと思います」
「そんなことでこの科をやっていけるんですか?」
「そうですね」
 先生はとても頼りなかった。
「それでも僕は、患者さんの平和を願っています」
 それだけは譲れないとでも言うかのように、とても力強い声だった。
 私は、まだ納得していなかったけど、先生は言った。

「どうかお大事に」

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