見出し画像

「奇特な病院2」暇科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第27外来:暇科(患者 桧山楓)

 本で人生は暇で退屈なものだと読んだ。
 その日から私は、自分の夢もただの暇つぶしに過ぎないかと思い始めて、うろたえた。
 今の夢が私の生きる理由になっていたから。
 夢が信じて疑いようのない生きる目的のように思っていたからだ。
 なのに、暇つぶしだって?
 そりゃないよ。
 必死に生きるのも人生。のらりくらりと生きるのも人生。
 だけど、等しく時は過ぎる。
 人生の目的は、なるべく悩まないように。
 夢にしがみついて生きてきたけど、その夢が暇つぶしだと言われたら、途端になぜか人生はむなしいものに感じて。
 何かに夢中になれることは素晴らしいはずなのに。
 そのときのその人の顔は、すがすがしいはずなのに。
 でも、その何か夢中になれていたものが、何らかの原因により、うまくいかなくなる。
 そのとき、虚しさと暇が突如、襲ってくる。
 何も考えずに、一心不乱に進めていければ、それは素晴らしい。
 暇なんか感じない人生もあるだろう。
「忙しい、忙しい」
 と生きていくことも可能だろう。これも本で読んだけど、時に人生は、頭の中だけで忙しくなると。
 私には、急に夢から少し冷静になったら、暇が襲ってきた。
 うろたえた私は、「暇科」があると聞いて、試しに受診することにした。
 待合室はとても混んでいる。暇な人がたくさんいて、「暇科」は大繁盛のようだった。
 診察室に入ると、とても忙しそうに、額に汗をかきながら、先生は早口で言った。
「暇なの?」
「まぁ」
「そんなに暇そうじゃないじゃない?」
 先生は、早く話を終えようとしているのかと思ったが、そうでもないらしい。
「今まで夢を追いかけてきたんですが、ふと暇になりました」
「その夢はどうするの?」
「どうしようかなと思って、ここに来ました」
「楓さん、来る科を間違ってるよ」
「えっ?」
「きっと楓さんは、暇じゃなくて、夢から逃げたいんだよ」
「そうなんです」
 それから私は、早口で夢について語り出した。
 先生は、忙しいのに、相談に乗ってくれて最後に言った。

「お大事に」

関連投稿
「奇特な病院」暇科|渋紙のこ (note.com)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?