「奇特な病院」話が通じるっていいな科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第24外来:話が通じるっていいな科(担当医 猫田智彦。補佐あり)
どうもこちらの話が通じてないと感じるひとは、多いらしい。
老人ばかりに囲まれて、石原裕次郎の話ばかりされても、いまいちピンとこないだろう。
石原裕次郎が生きていた時代に、俺は生まれてない。
生まれていない時代の話をされて、困惑している人の助けになることがこの科の役割だ。
この科の俺の仕事は、話の通じる人をつなぐ仲介役になること。
若くたって、石原裕次郎の話をしたいひとには、老人を引き合わせる。
ほんとに、アニメに興味のあるひとには、同じようにアニメ好きを。
思う存分、自分の好きなものについて語れる相手を見つけてもらうことがこの科の存在意義だ。
だから、初診では、ひたすらに話したい内容を聞き取る。
スラムダンク、ドラゴンボール、漫画、ビジネス書の話でいいなら、俺が話し相手になる。
こちらがわからない話の場合は、話が合いそうなひとをひたすら探す。
さみしんぼ科の合谷先生とは、よく寂しさについて語り合う。やっぱり話が通じるっていいよなと二人で酒を飲み交わす。さみしすぎる人もご紹介いただいている。
非推し活科の大宮先生には、推し活について熱く語る患者さんに是非我が話が通じるといいな科も受診してくれるよううながしてもらうように頼んである。
涙をこらえて科の剣持先生には、一緒に泣きたい人が、話を通じるっていいな科にいるんですよと伝えてもらうようにしている。
ともだち科の月山先生には、話し相手を探しているなら、話が通じる相手を一緒に探そうと、猫田が言ってると、この科のチラシを渡してもらうようにしている。
連携のもとに俺の科は、できてる。つながりは広がるほど、この科の場合いい。
それもこれも話が通じると、なぜ楽しいのかを俺がもっと伝えたいという思いから始まっている。
自分の知らない話に耳を傾けることも大事なことだけど、なんも気を遣わず、
「わかる!わかる!それそれ!」
といつもの気遣いすぎる自分から離れて、自由に話すだけで興奮する経験を味わってもらいたいという思いからだ。
少しでも自分は、周りの人と話が合わないとお思いならば、俺が、いつの日かあなたにぴったりの話し相手を見つけて差し上げよう。
話の通じる喜びに興じることは、楽しい。
楽しい会話を人生の糧にして。
よきひとときを。
お大事に。
(第25外来は、ぐっとこらえる科です)
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