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「奇特な病院2」話が通じるっていいな科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第24外来:話が通じるっていいな科(患者 根石文雄)

 人と話していて、話が通じていると思ったことがない。
 それが、どういう感覚なのかわからない。
 僕をいつも孤独が追ってきて、一人でいることが多い。
 人と関わるのが苦手なわけではない。
 苦手だと思ってしまうと、もう僕は一人だから。
 そう思わないように、人に話を合わせている。
 そんな僕がこのままではいけないと思った。
 ある日、朝起きて、突然、
「このままじゃだめだ」
 と雷に打たれたように思った。
 僕は、このままじゃだめなんだ。
 そんな風に僕は僕を変えようと思った。
 でも、どこを変えたらいいのか見当がつかなかった。
 諦めかけていたとき、奇特な病院を見つけた。
 どこの科を受診したらいいかと悩んでいて、目に留まったのが、「話が通じるっていいな科」だった。
 だって僕は、話が通じたことがないんだから、話が通じるっていいなという感覚をまずは教えてもらおうと思った。
 僕の大きな一歩だった。
 待合室では、みんながそれぞれ興味のある話をしている。笑い声のよく響く待合室だった。
 僕もあんな風に笑えるようになるかな。
 診察室に入ると、先生が言った。
「何について話したいの?」
「あの、わからないんです」
「うん。何について話したいかわからないけど、この科を選んだんだね」
「はい。そうなんです」
「誰かと話したいと思ったんだね」
「たぶん、そういうことだと思います」
「そうか。根石くん、君は、僕と話そう」
「はい。何について?」
「何についてでもいいよ。俺も勉強していくから」
「僕のために?」
「別に俺のためだよ」
「えっ?」
「俺が根石くんと話したいからだよ。せっかくここまで来てくれたんだ」
 僕は、来る前より、気持ちが穏やかだった。
 僕は次回も予約しますと言うと、めちゃくちゃ笑顔になった先生は言った。

「お大事に」

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