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「奇特な病院2」わざと科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第26外来:わざと科(患者 張本あかり)

 わざと自分が不幸になるようなことをしてしまった。
 相手をふいに傷つけた。
 それは、確かに自分の弱さで、相手が傷つくのを確信して、伝えた。
 自分の性格の悪さに、自分の毒に、自分から飛び込んでいった。幼かったとはいえ。
 あれは、そう。まだ後悔の中にいる今日。大人になった自分があの場でいたら。
 自分で自分を陥れるようなことは、自分に良心があるなら、心に背くようなことはしない方がいい。経験した者からアドバイスすると。
 私なんかいない方がいいんだ。
 自分のしてしまったことに後悔するくらいなら。
 自分のしてしまったことを思い悩んで今があるなら。
 ふと目にした奇特な病院の広告を見て、自分の傷を思い出した。
 1週間、受診しようかどうかを悩んで、自分の仕事が手につかなくなったから、結局、予約を取った。
 待合室で待っていると、すぐに名前を呼ばれた。そんなにこの科を受診している人は多くないようだった。他の科の方が混んでいる。
 先生は、会ってすぐに言った。
「加害者側ですか?被害者側ですか?」
 私は正直に答えた。
「加害者側です」
「そうですか」
 先生は落胆したように下を向いた。
「どういうことを後悔してここに来られたのですか?」
 そのような質問をされるとは思っていなかった。
 わざと何かをしてしまって、ここに来るひとが他にもいるのかしらと思った。
「今、三十歳なんですけど、小学生のときに、転校してきた子がいたんです。すぐに私たちは仲良くなりました」
「はい」
「それなのに、私よりかわいくて人気者になりそうだと思ったのか。私は、その子に言ったんです。みんなあなたのことをうるさいと言ってると。そしたら、その日からその子は学校に来なくなっちゃったのです。あとから聞いた話だと、前の学校でもその子はいじめられていたから、転校してきたようなのです」
「その日から?」
「はい。最近、職場で、私もうるさいと言われて、迷惑がられてて、小学生のあの子のことをよく思い出すのです」
 先生は、何も言わずに、私の話を最後まで聞いてくれて、ゆっくりうなずくと言った。

「お大事に」

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