「奇特な病院2」非推し活科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第5外来:非推し活科(患者 大野美咲)
推し活って言われても、ピンとこなかった。
アイドルに今までハマったことなどない。
そもそも私は、他人に興味がないのかもしれない。それが問題だ。
「大野さんは、誰が好きなんですか?」
職場で誰かのことは推しているだろうと当然のことのように聞かれる。
適当に、嘘をつけばいいのかもしれない。
流行っているとテレビで取り上げられている人の名を言えばいいのかもしれない。
でも、私はそうしない。
だから、ちょっと変わり者扱いされる。
昨日、今日、始まったことではないから、平気。
だけど、仕事先で、話題に上ったのが、奇特な病院というのがあるらしい。
どうもそこには、非推し活科というのがあるらしい。
全部伝聞だが、私は、その非推し活科という名前に惹かれて、調べ始めた。
しかし、診察内容まではわからない。
私って、非推し活よね。
変わり者でもいいけど、なぜ推し活が普通にできないのか。
なぜか理由が知りたくなってしまって、予約を取った。
問診票には、「推しは誰ですか?」と書かれていた。
やっぱりここに来るべきじゃなかったんだわ。
だって、推し自体に興味がないのだもの。
それでも、せっかく来たのだから、診察をとりあえず受けてみようと思った。
「それで、推しについての悩みですか?推し活についての悩みですか?」
と聞かれて、私は、首をかしげた。
先生も首をかしげた。
「どんな相談で来られました?」
「推し活に興味がないんですが、どういうのが推し活というのか知りたくて」
「はぁ」
先生もそんな相談はあまり来ないらしく、不思議そうに私を見た。
「推し活に興味があるんですか?」
「私は、人に興味がないって、それが、ちょっと人と歩幅を合わせられない理由じゃないかと思いまして」
「ああ、そういうことか。大丈夫です。俺も同じようなもんです。毎日、誰かが幸せならそれでいいんです。そんなに悩むことじゃないです。解決ですね」
悩んでいたことを笑い飛ばされて、私は、小さなことを悩んでいたのだと知った。
私の顔を見て、先生は嬉しそうに大きな声で言った。
「お大事に」
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