「奇特な病院」外面科
※連作短編小説ですが、1話でも完結します。
第34外来:外面科(担当医 目白レミ)
インスタ映えとか写真映えがいつから重視される時代になったのか。太古の昔からそういうものであったのか。知る由もないけども。
自分が他人からどう見られているのかをとても気にする人がいる。
「今日の髪型は決まっていますか?」
そう目黒さんは言う。
「ええ。ばっちりです」
その会話から毎度診察が始まる。
「旦那は、ほんとに何も一人じゃできない人なんです。もう嫌になっちゃう」
そういう愚痴が延々と続く。
私は、目黒さんにちょっと辟易している。
きっと旦那さんに対しても、たくさん文句を言ってるのだと思っていたが、違っていた。旦那さんが付き添いでやってくると、目黒さんは全く違う顔を見せる。
「あなた聞いて。先生は、いつもあなたを褒めてくださるの」
私は、いつもの目黒さんとの様子の違いに混乱する。
この科は、外面科だから、目黒さんは、自分でも外面を気にすることを気にされているのかもしれない。
結局、外面というのは、誰に自分がよく見られたいのかによって変わるのだと思う。
世界中の人に好かれたいと思えば、たとえ愚痴が体中に充満しても、無理をして、自分のいい姿を見せ続けるだろう。
そのことによってどんな弊害があるかは、深く考えることもなく。
外面科を担当することになって、私が感じたのは、外面良く生きていこうとしても、どこかにほころびが現れる。
それは、仕方のないことなのだと思う。
他人に完璧な自分だと思って欲しいと思っても、本来完璧な人などいないのだ。
それでも、人間は、他人にはなるべく良く思われたい。
その完璧な自分を重視しすぎるあまりに、犠牲となるものがある。
私が考える一つの答えは、バランスかなと思う。
他人に自分がどう見えるかと自分がどういう人間か。
無理がたたるのが一番良くない。
そこには、愚痴や苦しみ、犠牲になる人がいることを忘れてはならない。
苦しくなる前に、自分の心地の良い外面と周りの人との調和を少し考えてみてもいいのかもしれない。そんなにみんな美しい面ばかり持ち合わせていないということを大前提に。
心から笑って、恥ずかしくない程度の身なりで、人と楽しく時を過ごす。
大切なことは、無理しすぎないことだ。
お大事に。
(第35外来は、私が悪いんです科)
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