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「奇特な病院2」人の顔色を読んでしまう科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第23外来:人の顔色を読んでしまう科(患者 沼袋信宏)

 誰といても、本当の自分じゃないみたいに感じてきた。
 中学、高校と仲間外れにされることはなかったけど、誰かといると、どれが本当の自分なのかわからなくなることが多かった。
 親友と呼べる人もいなかった。
「明日来れる?」
 暇だと言う友達の誘いを断ったことは一度もない。
 俺って、どこへでもひょいひょいとやってくるどうでもいいやつなんだろうなと。
 だって会話に中身がなさすぎる。
「昨日のアニメ見た?」
 見てないくせに答える。
「見た見た」
「あそこのバトルシーン最高だったよな?」
「そうだな」
 慌てて答える。
「本当に見たのか?」
「見たよ」
 相手は、疑って俺を見る。
 そうだよ、空気を読んだだけだよ。この場の空気を壊したくなかったし、お前の顔色を読んだだけだよ。そう伝えることはできそうにない。
 でも、このまんまじゃいけないと思い、「人の顔色を読んでしまう科」の予約を取った。
 俺のための科があるじゃないか。それも家から意外と近い。
 診察室に入ると、気弱そうな先生が言った。
「さぁ、さぁ、緊張しないでね」
 先生も俺の様子から、緊張しているという気持ちを読んだんだと思った。
「あの」
 話しづらそうにしていると、
「そうね。私のことは気にしないで、話したいことを話してみて」
 先生が優しく言った。
「実は、俺、自分がないんじゃないかと思うんです」
「私もです」
 先生は、少し申し訳なさそうに言った。
 どうも先生と俺は、似ているらしい。
「先生は、どうやって克服したんですか?」
「まだできてないの」
 そう言う先生とあらゆる場面での自分の至らなさについて話して、俺は、自分だけが悩んでいることではないと知った。
 また来るかはわからないけど、俺の不完全燃焼な気持ちをおそらく察した先生は、俺の顔を覗き込み心配そうに言った。

「お大事に」

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