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和田春樹、伊勢崎賢治らによる声明「日本、韓国、そして世界の憂慮する市民はウクライナ戦争即時停戦をよびかける」の文字起こし その2


その1からの続き

概要
・日本と韓国はアメリカに従属的な緩衝国家
・いまの戦況は停戦交渉を進めやすい環境
・ゼレンスキーが民族主義者から背中を撃たれる前に停戦を
・「停戦=降伏」は驚くほど幼稚なミスリード
・停戦合意の為に戦争犯罪、人権問題を棚上げにする必要性がある
・人権問題の棚上げを理解する世論の形成が絶対必要
・ロシアとウクライナの軍事比は非対称ではない(=対称的である)
・大小の差はある
・アメリカとNATOの武器供与によってロシアとウクライナの軍事力が均衡化されその先に核戦争が起こる
・そうなる前に即時停戦

伊勢崎賢治氏

日本と韓国はアメリカに従属的な緩衝国家

「今日用意してきたスクリプトのちょっとした前提としてですね、ウクライナのような国は"Buffer State"、緩衝国家という認識を日本人も韓国人も持つべきだと思っています。
 何故かというと韓国も日本もまさしく緩衝国家です(笑) だから非常に深刻な問題。それで僕の一つのライフワークなんですけど実はアメリカとの地位協定をちょっと批判的にずっと研究していまして国際研究、比較やったんです。すると120以上あるアメリカが締結している地位協定の中でやっぱり米韓地位協定と日米地位協定がおかしいんです(笑)

 NATOの加盟国にウクライナがなるかもしれませんしならないかもしれませんが、NATOの加盟国になるっていうのはNATO地位協定に入ることなんですね。NATO地位協定っていうのは基本的に互恵性なんです。法的にアメリカと対等なんです。この法的な対等性が米韓と日米に無いんです(笑) はっきり言って従属的なんです。もちろん韓国のほうがマシです。日本に比べたら。

 何故かというとご存知のように韓国の歴代の大統領の政権というのはアメリカから指揮権を取るということに非常に拘った。ところが日本はそんな意識さえ無いんです。我々は完全に従米ですね。韓国よりも従米なんだこれ(笑)
 この状態でもしロシアもしくは中国との緊張が高まって刺激し続けたらこれ本当にウクライナよりヒドいことになるという事で是非この機会を韓日の研究者の協力の一つのきっかけとしたいと思います。これからよろしくお願いいたします(笑) 今日は本当に嬉しいです。

では始めます。

スエズ危機のケーススタディ

 一応僕元国連職員でして、一つ国連の立場から言わせていただきたいんですけれども国連総会の役割がまだあるという事ですね。ご存知のように1956年僕が生まれる1年前ですけれども第二次中東戦争、これはスエズ危機ですよね。このケースの唯一の示唆となるものだと思っています。
 安全保障理事国であるイギリスとフランスが戦争当事者だったんですね。ご存知のように安保理が機能不全に陥ってその時カナダのピアソン外相、この功績で後でノーベル平和賞もらうんですけれど、その掛け声のもとに国連総会が国連緊急文を発動してこれが後の国連PKOの原点になっております。

"平和のための結集決議"というツール


 でもそれに遡ってまだあるわけです。それが1950年の国連総会の決議で決まった『平和のための結集決議』ですね。これが"United for Peace"略してU4Pと言うんですけどこれ1950年の話なんですね。これは安保理が拒否権で機能不全に陥ったとき、国連総会に緊急特別審議を可能にするものである。これはまだ使えます。これに向けて多分国連は動いているはず。

 実はね。グテーレス国連事務総長は今回のウクライナ戦争においても人道的危機、停戦、"humanitarian", "cease fire"という言葉を既に使っております。その一環として今マリウポリで人道回廊、なんとかなんとか紆余曲折などで成功したみたいですけれどこれは大きな礎になるはずです。

 このU4Pを意識した国連による停戦調停と監視を意識した発言を既にされてるって事ですね。もしそのような決議が将来この戦争に関して国連総会の俎上に上がった時はロシアといえども反対しにくいんじゃないかと僕は思います。

 何故かというと今回のウクライナ危機というのが原発が戦闘に巻き込まれるという新たな脅威が加わったんですね。原発の脅威です。北部のチェルノブイリと南部のザボーリージャ(* 音声ママ)、原発の戦場化が本当に世界を震え上がらせました。で、ロシアが撤退したチェルノブイリには既にIAEAが入っております。

 しかし、現在も主戦場になっている南東部にまだ2つの原発がある。これがサボリージャ(* 音声ママ)と南ウクライナ原発になりますけどもこれは非常に心配するということです。これは多分ですね、原発周辺半径何キロというように非武装緩衝地帯を作り、そこに国連監視団を常駐させることもこの人道的停戦に加えて国連総会主導による停戦調停を醸成に向けてもう一つの有効な口実になり得ると僕は思っております。

日本人が停戦をイメージしにくい理由

 停戦はたぶん日本人にとってイメージしにくいんですよね(笑) 何故か?我々はその機会の前に敗戦しちゃいましたから(笑)

 一般論として停戦というのはいわゆる戦況がある程度硬直して双方がこれ以上戦っても上位の戦争目的が達成できないという雰囲気がある時ですよね。この時に可能になる訳です。それプラス強力な仲介者が現れる。それが和平協議に向かうシナリオ。このコンテクストで語られる。今回の戦争の場合はまさにいま戦況がそうなっています。

 トルコなどの仲介も既に声明文でありましたけど始まっておりますね。プーチンはもちろんですがゼレンスキーの方も今のところそれぞれ国民の強い支持を維持しております。これは一般論として停戦交渉を進めやすい環境にあると僕は思っています。紛争が、戦争が疲弊化していきますとそれぞれの陣営の内部の統制が利かなくなってくるんですね。どこでも起こるんです。
で、交渉を弱腰とか妥協みたいに捉える強硬派が暴れてくる。
 これが心配されるのはむしろウクライナの方だと思います。ゼレンスキーさんがいわゆる民族主義者から背中を撃たれるような心配しなければならない。そうなる前に早期の交渉が絶対必要な訳です。

「停戦=降伏」という幼稚なミスリード


 もう一つ、日本ではどういうわけか停戦が降伏(笑)…だというような驚くほど幼稚なミスリードがある。学者によってそれが流れてびっくりしてるんですけど。ここでちょっと説明が必要だと思います。それは特に日本人が理解すべきなのは停戦というのは事実行為であります。で、戦争の結果とは無関係のものなんです。
 つまりどういう事だというと領土とか帰属問題とか民族自決権の問題とかそれとか戦争犯罪の取り扱いはむしろ戦闘行為が中断されてから時間をかけて議論されるべきものです。戦争犯罪も事実そうなんですね。これが停戦への努力を支える考え方ですね。特に実務家にとってですね。特にこの戦争犯罪の対処が非常に問題です。

停戦合意の為に戦争犯罪、人権問題を棚上げにする必要性

 停戦の仲介を実務としてやってきた者として、僕の事なんですけれども、僕も嫌というほどこれを経験していたのですが停戦仲介者に不可避的に浴びせられる糾弾があります。それは『不処罰はどうか』、"culture of impunity"ですね。これを促進する僕らは悪魔じゃないですか。そういう糾弾があるんですよね。停戦合意の為には戦争犯罪などの人権問題はある意味棚上げ(笑) にしなければ交渉が前に進まないです。これが現実問題としてある訳なんです。ですからこの糾弾に対するレジリエンスを我々持たなきゃいけないです。全員がです(笑) これは本当に苦しいことです。人権は僕にとって宗教みたいなもんでから。だから本当に実務で携わると苦しいんです。
 
 特にこれから現れる停戦の仲介では必ず政治的リスクが伴います。国連の中でも平和維持活動の一貫としてこれをやるのはニューヨークに本部を置く国連、もうひとつ国連がある訳です。それがジュネーブ、そちらは人権の国連なんです。そうすると同じ国連の平和維持活動で停戦交渉をやっててもジュネーブの国連から文句言われる訳ですよ(笑) だから国連の中でもこういう確執がある訳ですね。これプラス、アムネスティ・インターナショナルとか僕が非常に尊敬している人権団体から僕らが非難される。そういう風になっちゃう。

 で、停戦仲介を特定の国家がやる場合、当然それが失敗するときの政治リスクを勘案するでしょう。誰でも。だから棚上げを理解する世論の形成が必要なんですよ(笑) それがいっぱいになっちゃうとただ棚上げバンザイになっちゃうと本当に不処罰の文化になっちゃうけど。そうじゃなくてやっぱり少数でいいからそういう世論形成は絶対必要です。だから今回の場合はロシアの絶対的な悪魔化、これは非常に問題だと思います。だってその悪魔と対応しなければならないのが交渉ですからね。だからここ本当に気をつけて僕は発言したんですよ。

 まぁ停戦協議はまだまだ難航しそうですが、それが実現し、持続問題を含めた和平交渉に向かうにしても戦争の火種は果たして恒久的に無くすことができるのか。たぶん親ロシア系の人々は東部のドンバス以外にも混住してるそうですから、これまで傷付けあった民族的な断絶というのは紛争再発の火種になり続けます。残念ながら。

 ですからこれから復興があるとして日本を含めた西側の援助っていうの特にインフラだけじゃなくて民族和解へのケアが焦点になってくると思います。

ロシアとウクライナは軍事的に対称である


 最後ですがある有名な方とちょっと停戦に関する議論があって、その中でその有名な方がですね「停戦とは今回の場合は問題外じゃないか。なぜかと言うとロシアとウクライナは非対称である」と(笑) 非対称(笑) アシンメトリック。これについて我々もうちょっと我々気をつけないといけないといけません。今回すごいでかいロシアがちっちゃいウクライナを攻めてきたんだからもう停戦なんてありえない、ロシアを糾弾してあいつらを諦めさせないといけない。そういう論調で停戦をアドボケイト(擁護)している我々を非難してるんですけど。

 あの大変言いにくい事なんですけどロシアとウクライナの軍事力の比というのは非対称ではありません。アシンメトリックでもありません。それは大小ありますよ。でも例えばロシアが例えば僕が住んでる杉並区と同じくらいの人口の東ティモールを攻撃するのとは違いますから。ウクライナってのは戦争が始まる前までは軍事大国の一つですから。特にミャンマーの軍事政権に武器を供与してたぐらいですから(笑) だから大小の差はあるけど非対称ではない。特に圧倒的な非対称ではない。
 言わずもがな同じ様に占領とか非占領されている関係にあるイスラエルとパレスチナ、この非対称には遠く及ばないと言われています。僕らはまぁ心情的にパレスチナ応援してますけれども武器の供与はしない訳です。このダブルスタンダードはなんだろう? だからロシアとウクライナだったら停戦が可能なんです。させなきゃいけないんです(笑)

アメリカとNATOの武器供与が日本を参戦国にする

 で、ここで問題なのがアメリカとNATOの役割です。いま武器を供与しています。果たして武器供与というのは紛争当事者になることなのか。これが国際上まだ決着ついてないです(笑) みなさんご存知のように戦前のハーグ条約これまだ続いてる訳です。

 その中に中立法規ってのがありましてね。中立というのは誰かの戦争に武器でもなんでも支援したらその時点で中立でなくなるという(笑) ところが戦後、国連憲章ができちゃった。国連憲章でご存知のように国連的処置PKOとか集団的自衛権が認められちゃった。そうすると可哀想な事があるとみんなで行かなきゃいけない。それでやはり戦前のいわゆるハーグ条約と国連憲章もちょっとした齟齬がある。そこがいつも問題になる訳なんです。

 問題はですね、いま欧米諸国によりNATO加盟国の一つであるポーランドを前線基地としていま武器供与が進んでますね。今まで個人携帯武器だったのにこれから重火器にシフトしてる訳です。このままウクライナとロシアとの間の戦闘能力が均衡化、あるいはもう非対称どころじゃなくてどんどん均衡化されていくとどういうことが起こるかというと、もう既に小規模には始まってますがウクライナの反撃がロシア領内に及んだ時どうするか。ロシアが攻撃された。そうするとロシアが国連憲章51条の自衛ができるっていう言い訳ができるわけ。そうすると自衛の観点からポーランドに対して戦端を切られるかどうかって話なんですね。多分切ると思う。こうなるとこうなると軍事同盟であるNATOが集団自衛権を発動する可能性が高まります。それを心配してる訳です。その先は核戦争ですね。

 結果的に当然NATO全加盟国が紛争当事者になる可能性が十分ある。このまま武器を供給すればするほど、いつか。もう始まってます実は。ウクライナのロシア領内の攻撃は僕が知る限り2回起こってます。これがひどくなるロシアが自衛権を発動できる。で、ポーランドを攻撃する。これに非常に愚かにも枠組みに加わっちゃったのが防衛装備移転三原則をまぁまぁ弄ってですね、防衛装備を送った日本なんですけど(笑) 日本ももしかしたら参戦国になります。だからそうなる前に交渉で即時停戦を現実させなければなりません。というのが僕の意見です(笑)」

Q&Aセッション

Q「中国や中南米などロシア非難決議に賛成しなかった国のイニシアチブについて」

伊勢崎「国連総会の2回目のロシアに対する非難決議、1回目の時も棄権に回った国が35カ国ありまして、2回目はそれが3つ増えちゃった訳です(笑)これが示唆的なんです。1回目に棄権に回った35カ国の中で南アフリカが女性の国連大使がスピーチの中で明確に言っていたのが『一方的な制裁というのは対話の芽を摘んでしまう』『何も解決にならない』と。ほとんどこれ否決ですよね。でも棄権にまわった訳ですね。それはやはり南アという国のアパルトヘイトを乗り越えた、対話でです。一つの国是になったんです。
 ご存知のようにネルソン・マンデラがアメリカのテロリストリストから正式に抜けたのは2008年ですから。やっぱりソ連っていうのは反植民地運動とか反人種隔離運動の庇護者だった訳ですよね。そういう人達がいま政権の重鎮にいるわけですから。これは別にロシアとかソ連を肯定しようとする訳じゃなくて事実そうだった訳です。
 2回目はなんと国連決議案の第一案を南アが作ったんですよ。そこにはロシアって名前は入ってないんですよ。つまりウクライナ危機に対して国連総会が一致団結しなきゃいけない、そうすれば棄権も否決もないだろうと。つまり全員が支持することを目指したんですよ。それがポシャっちゃった。それはウクライナの国連代表が介入して。それでロシアの非難決議の2回目が出てきた。でも結果として3つ増えてしまった(笑) だからこれから南アみたいな国は国是を通すと思う。
 それプラス、ブラジルはこれから大統領選挙があるんですけどもボルソナロが暴れれば芽が出てくるかもしれないですし、イランも同じ様な立場ですし。

 実はですね確認してなんですけど国連安保理で似たようなことがありました。2日ぐらい前に。正確におぼえてないんですけどもグテーレスさんが人道停戦をもっと拡大する為にロシアを非難じゃなくてもっとどうにかしようという決議を出して否決された、国連総会か確か安保理だったんですが。そういう動きがあるって事だけはどっかで聞いたんですけども、でもたぶんこれ多分そうなると思うんです。停戦をしなきゃいけない、努力をしなきゃいけない全世界でという時にロシアを一方的に非難しなくてもいいだろうと。そういう雰囲気になるんじゃないでしょうか。」

Q「常任理事国が機能しない場合は総会に権限が移るという慣行があると聞いた。非難決議は出したがこれから国連が何ができるのか。また中立的な国際機関としてOSCEがありますがもっと存在感を出すことができないか。」

伊勢崎「国連の停戦仲介手段は2つあり一つはSRSGと言われる事務総長特別代表。かなり国連の中で経験を積んだ、国連に入る前は出身国で外務大臣とか大臣クラスのことをやってる人、一番イメージしやすいのはブラヒミさん。ああいう人を代表にして仲介そのものに国連が関わるというのがある。ブラヒミさんはお年だからバン・ギムンとかならないかなぁ。それがまずひとつ。

 もう一つが監視団、いわゆる停戦合意の定着です。そこに第三者を入れて合意違反、つまり再戦闘などを起こしにくくする。それが2つ目。これは第二次中東戦争から始まって国連のお家芸みたいなもんですからやる可能性がある。そこにさっき出たOSCEの話も出てくるんですけども、一番卑近で国連監視団を作ってSRSGにあたる人間を任命して失敗しちゃったケースがありまして(笑) それがシリア(笑)
 シリアはISISとかが出る前、アサド政権対反アサドみたいな紛争構造が単純だった時に1回やったんです。そん時は国連とアラブ連合が共同主催という形で第一回のSRSGはコフィー・アナンさん。でも監視団が攻撃されてそれで有耶無耶になっちゃった。250名ぐらい居たんですけど。その後を継いだのがブラヒミさん。ISISが出てきて滅茶苦茶になっちゃった(笑) 今回はそうなる確率が高い。ウクライナとロシアの正規軍以外も入ってる訳です。そういう人達が現場を混乱させ始めると手がつけられない。
 だからシリアの経験を受け入れてできるだけ早期に国連代表を送るか、中国とか大臣経験者を任命して当たらせるとか。それで監視団をとにかく送る。そうしないと多分シリア化します。
 
 だからOSCE、シリアにおけるアラブ連合と同じ様な役割ですよね。当地のOSCEっていうのはドンバス戦争の頃から入ってるから現場をよく知ってると思うんですよ。実績もありますよね。これはすごくいい可能性だなと思います。国連とOSCEの共同でやる。

以上です。

https://youtu.be/4w4doDsfko8

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