フィリピンのサタデーナイトフィーバーvol.2
フィリピンの夜は長い。パリピにとっても、そうでない女にも同じ。
ジャパニーズボーイズがフィリピーナとよろしくやっているあいだに、私は私でフィリピンの若者たちとハロウィンのサタデーナイトを意外と楽しんでいた。日本であれば「踊り方とか、ノリとかこれであってるのかな・・・」とか「ダサくないかな・・・浮いてないかな・・・」と周りを気にしてばかりの自分だったけど、海外に出ていいところの一つは周りの人間があまり気にならないということだろうか。
妖艶で挑発的なフィリピン人
フィリピン人は楽しいことが大好きな国民性らしい。村の家々や街角で大音量で音楽をかけて歌ったり、踊ったりしているのをよく見かけた。
ナイトクラブではさらにその何倍も激しく踊る。踊る、というか、踊り狂う。狂ってる。クレイジーに、踊り続けていた。まだ年端もゆかぬティーン達が、器用に腰をくねらせ、お尻をふって、腕を掲げて、セクシーに踊る。男性陣はそれに応えるように、彼女たちの動きに合わせて自分の動きをメイクしていく。妖艶で挑発的。熱と汗と奇声と歓声の中にいて、点滅するライトのせいか、軽く目眩を覚えながらわたしも輪の中で揺れていた。
とは言っても、アラサーはアラサー。ティーンたちに合わせて踊っていたらすぐに体力の限界がきた。汗もだくだくだし、喉も渇くし、もう満身創痍。わたしは曲が変わるごとに輪から外れ、ビールを補給していった。席では引き続きフィリピンパブよろしい宴が楽しげに開かれていたので(フィリピーナの人数もなぜか増えていた。)ビールを少し飲んでは、また席を離れてふらふらとフロア内をさまよったりした。
その間に、何人かのフィリピン人男性にお酒をおごってもらったりもしたんけれど、薄いレゲェパンチではとても酔えず、英語の勉強も兼ねて健全に彼らとの会話を楽しんでいた。「こんなとこで飲んでないで、こっちおいで!」とフィリピーナ達に急かされて席に連れ戻されたりもしたけれど、席に戻ってもとくにすることがないので、(男性陣はお楽しみだし、邪魔だし。)またふらふらと踊りにいったり、飲みに行ったり、クラブの外に出て奥さんに逃げられたバンドマントの話を聞いていたりした。
(このバンドマンの話もおもしろかったんだけれど、それはまた別の物語。)
深夜のカミングアウト
深夜も3時になって、そろそろお開きにしますかという感じになった。正確にいうと場所を変えましょうかということになった。ジャパニーズボーイズとフィリピーナたちは、それぞれいい感じのカップルが成立したらしく、さらにどこかへしけこむ相談をしていた。
大通にはジープニーも通っていて、どうやら乗り継いで帰れるようだった。安心したわたしは、街灯の下でフィリピーナたちと別れの挨拶をした。ボーイズ達には、楽しそうでなにより!とおばさん心全開で祝福しながら、眠い目をこすって帰ることにした。
そのとき、ふと横をみるとボーイズの一人がやけに落ち込んでいる。顔は白く、全身から負のオーラが出まくっていた。この数時間、お楽しみしたはずなのに、である。
「・・・だまされました。」
遠い目をしながら、かぼそい声で彼がそうつぶやいた。ぼったくりかなにかにあったのかと思ったのだけれど、そうでもないらしい。
「彼らに、だまされました。」
最初、なんのことかわからなかったのだけれど、ハグをしている「女の子」たちを見渡してピンときた。なるほど。彼ら。
そこに、ポニーテールの可愛らしい「女の子」が私に駆け寄ってきた。先ほどまでその落ち込んでいるボーイの膝の上にいた子である。
「Do you agree or disagree ??」
彼女、もとい女装した彼の笑顔はくったくがなく、女性の私でもどきりとしてしまうようなチャーミングさがあった。
「Of cource, AGREE !!」
と、わたしは応えて、彼女とハグをした。彼女の細い腕も華奢な背中もなんら違和感なく、わたしはこの数時間を思い返しながら、この状況を全て楽しんだ自分をちょっぴり誇らしくも思っていた。
4、5歳離れた大学生たちとパーティーピーポーでもない私が慣れないフィリピンのクラブに来て、キャバクラとかした席を拠点に踊り狂い、現地人と戯れながらこの空間を楽しみ倒したこと。そして、最後に綺麗にこの素晴らしいオチ。もう、AGREE以外のなにものでもない。Thanks GOD!! Thanks HALLOWEEN!!
「Thank you FRIEND !!!!!」
可愛い彼はそう言って華奢な腕を私の首に回しながら、“彼女”は力強いハグを返してくれた。その距離でさえ私は彼の本当の性を感じ取れなかった。彼はしっかりと「女の子」だった。
カレー味のうんことうんこ味のカレーどっちがいい?
「認識が客体に従うのではなく、客体が認識に従うだけだ。」
昔大好きだった人が教えてくれた言葉が思い浮かんだ。この世の中に絶対的普遍的な客体は存在しない。見る側の認識によって客体はいかようにも変容しうる。
フィリピーナたちの半分はおかまちゃんだった。見た目には一切わからなかったし、仕草もすべて女の子のそれだった。日本人ボーイズたちは意気揚々と彼女(彼)らを膝の上に乗せて、ハグをし、キスをした。彼女、いや彼らと。
「脚を見ればわかります。おしりも固いし、手もゴツいし・・・。」
苦し紛れの言い訳というか、後の祭りというか、苦々しそうにジャパニーズが語る。気付かず楽しんでたやんか!と心の中でつっこみつつ、私はお腹を抱えて笑うしかなかった。
客体は認識に従うだけ。
そこにあるのは、今も昔も、綺麗におめかしした“彼ら”だけ。
かわいかったからいいじゃんという私に対し、それとこれとは違うんです。」と、ボーイズはうなだれながら答えてくれた。
人間て本当に面白いなと思った。
「カレー味のうんことうんこ味のカレーどっちがいい?」なんて小学生のときによく出た命題があるけれど、「すごくかわいい女の子の見た目をした男の子と、すっごくぶっさいくな女の子とどちらとヤりたいか」ってカレー味のうんこ論争と同じなのかなと彼らを見ながらそんなバカなことを考えていた。
そんなこんなで、フィリピンのパーティーナイトは終了。
汗と酒とタバコの煙にまみれてファームに帰ってきた私たちは言葉少なにそれぞれの部屋に帰っていった。私は明け行く空を見上げながら、楽しかったなーと伸びをしてまたひとしきり思い出し笑いをした。
フィリピンのサタデーナイト、のハロウィーン。
お見それしました。
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