散財大馬鹿野郎が今さらながら始めたメルカリ生活で
「パナ子ちゃん、お金ってね、使ったらなくなるんだよ?」
四十を過ぎて尚、こんなセリフを夫に言わせてしまう私は間違いなく散財大馬鹿野郎なのであるが、最近悔い改める機会が訪れた。
メルカリである。
「あなたのほしいモノ必ずみつかる」というフレコミで月間のユーザー数約2,000万人を誇る国内最大のフリマアプリだ。
ヘビーユーザーでなくとも一度や二度メルカリにお世話になったという人は多いかもしれない。
預かっていた生活費を家計簿もつけずにどんぶり勘定で使っていたら大赤字をこいたこと、また個人的な小遣いとして使っていた通帳残高が山頂から滑落するようにマイナスに転じようとしたこと。
これらを救ったのはいずれも、A型生まれA型育ち几帳面で管理能力バッチリの夫なわけだが、彼にそろそろ申し訳なくなってきた。彼の心労を少しでも減らさねばならない。
きっかけはX(旧ツイッター)のお友達、いわゆる相互フォローしている方のある呟きだった。
「ゆるミニマリスト目指してメルカリに不用品を売りまくっている」
そうか! メルカリに不用品を売ればいいのか! そうすれば小遣いの足しになるし、部屋も少しは片付く。これまで使うことに特化していた私の金銭癖を、増やすことにシフトチェンジするのである。
善は急げと、早速アプリをダウンロードした。
何か売れそうなものはないかと部屋を徘徊してみる。お気に入りだったが最近出番の減ったミニトートバッグ、デザインが好みだがどうしても足の形に合わないサンダル、読み終わった文庫本などが出てきた。
まず商品の紹介ページの作成が超簡単なことに驚く。ひらがなさえ打てたら、もしかしたら幼児でもいけるかもしれない。手順に沿って写真を撮ったり、商品名を乗せたり……そんなことをしていると自分がなんだか雑貨屋の店長になった気がしてきて楽しくなってきた。
調子に乗ってコーディネートを提案したり、使い方のコツを伝授してみたり。
つい5分前まで無職の散財野郎だった私が、店長さんになれるのだから不思議だ。
手始めに3~4個の商品を並べてお客様を待ってみる。
当然だが、秒で売れるほど世間は優しくないようなので、勉強がてら他の店舗をまわる。すると同じ商品でも売れ行きのよい値段というのがわかる。なるほど、このデザインでこの使用年数だったらもう少し値下げしておいた方がお客さんの目に留まるな。我が店舗の商品ページに戻り価格を少しだけ下げることにした。
高齢出産で二人目を産んだあと、体力気力が戻らず会社員から無職という華麗なる転身を遂げてしまったのであるが、最近では社会生活から取り残されている気もする。でもまだ外で働く余力がない。そんな時、メルカリでの販売が良いリハビリになるのである。
主婦の趣味程度でやっているといっても、相手からしたらお金を払って商品を購入しているわけであり、少なからず責任が生じる。モノを売って入って来るお金は微々たるものだが、取引の完了までは気が抜けない。
そうこうしているうちに、私の足には合わなかったスポーツサンダルにお客様からの「いいね」が付き始めた。いいぞ、いいぞ! いつでも売るぞ! 鼻息を荒くしながら待つこと数日、ついに店舗史上初の購入者が現れた。
やったー! 売れたー!!
まだまだ雑多な部屋のなかを所せましと小躍りし、喜びを爆発させる。
釣り竿に魚がかかった時、片思いの彼が少しこちらになびいて見えた時、買っておいた宝くじが当たっていた時……それくらい嬉しい。
YouTubeに上がっている動画などを参考にサンダルを丁寧に梱包する。コンビニに商品を持ち込み発送するときは少し緊張したがなんとかうまくいった。
更に数日後、お客様から「とてもよいお品でした!」と感謝のメッセージが届き記念すべき一つ目の取引は無事に完了したのであった。
11,000円で購入したサンダルは4,880円で売ることができ、手数料諸々を引かれ私の手元に入ってきたのは3,542円だった。もちろん元値を考えると利益は出ていないのだが、買い取り専門店に持ち込むよりは大幅に手元に残る。以前、スニーカーを持ち込んだ際、たいした汚れはなかったが、値段がつかなかったことがある。特に靴類はサイズがものをいうのでピッタリの買い手が現れるまで店舗に保管することはリスクになるのだろう。
その点、メルカリはお客様側もサイズを絞って検索をかけることができるので双方にとって一期一会級の結果をもたらしやすい。
そうこうしているうちに次の商品について買い手候補が現れた。
このお客様が気に入ってくれたのはミニトートバックだったが、驚きのストーリーが待っていた。このバッグは、新婚旅行で初めてハワイを訪れた際に大層気に入り購入したものである。十年が経過し出番が少なくなったので出品したのだが、商談途中のコメントのやりとりで、実はお客様も十年前にこのバッグをハワイの雑貨屋で見つけ迷ったあげく諦めた品だったことが判明した。
十年前にもしかしたらすれ違っていたかもしれない人が今ここに!
これは紛れもなくメルカリが運んできてくれたご縁だ。
私以上にそのバッグのデザイナーについて詳しいお客様は、おそろいのTシャツをお持ちとの事で「このバッグとTシャツを合わせておでかけする」と喜んで買ってくれた。買い取り専門店に出していたら起きなかったまさに一期一会の出会いが生まれたのである。
一つ一つ丁寧に品物に向き合うなかで、マインドにも変化が起きつつある。
これまで何となく購入していたものをじっくり吟味する時間が増えた。先日も子供と立ち寄った百均で可愛いマスコットのキーホルダーを見つけたが「いま本当にいるものかな?」と立ち止まって今回は買うのをやめた。
何も考えずお金に空に羽ばたかせていた散財野郎の心に「熟考タイム」が生じたのである。大きな成長である。
しかし、である。
そう簡単には買わないぞ、と密かに誓っていたはずの心を揺るがすのもまたメルカリだった。
何? 初心者キャンペーンだと??
条件もなくメルカリ内の買い物に使える500ポイントを差し上げるだと!?
私は心に鎖をつけながら絶対足の出ない商品を探し出し、1足500円の新品の靴下をゲットすることに成功した。
だが、明らかに、メルカリでの散財の敷居が低くなったことは間違いない。
当初は断捨離と小遣い稼ぎを名目とした利用であったはずなのに「何かいいものないかなぁ~」と購入者としてメルカリを目的もなく徘徊しだしている自分がいる。
おい! そういうとこだぞ! この散財大馬鹿野郎!!!!!
しかし、メルカリには新品同様の商品が半額以下で売られていたり、使い方によっては本当にお得な市場であるのは間違いない。賢い消費者の味方である。
「お金ってね、使ったらなくなるんだよ?」
夫の金言をスルメのように噛みしめながら、これからも賢く楽しいメルカリライフを満喫したい。
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