境目だった2017年

2014年の話

 2014年に、起業した。私が就職したのは2001年のことだから、10年以上も組織に所属した後での起業だった。ちなみに、私の生まれは1978年だから、ミレニアム世代のちょうど手前の世代ということになる。就職は超氷河期で、組織に所属していた頃は、常に不況と戦っていた気がする。

 さて、どちらかと言えばそのまま組織ぐらしを選ぶ方が「ふつう」と思える立ち位置で、わざわざいい年齢になってから起業を選んだのには、ある思いがあったからだ。ソフトウェアづくりを通して、世の中に新しい価値を積み上げていくこと。自分たちであらゆる意思決定のハンドルを握ることで、組織のいちメンバーでは取れないリスクを取れるようにしようと考えていた。そうすることが新しい価値を世の中に問う手段なのだと。

 手元で分かっていることだけでビジネスをデザインし、確実に進めることを前提としたソフトウェア開発では、分かっている結果しか見えて来ない。何が起きるか分からないようなワクワクを得るには、スタートアップのサービス立ち上げや、ベンチャーや事業会社の新規事業立ち上げに身を置くべきだ。私はそういう前線にいる人達と目的を同一にして、前に進んでいきたかった。彼らが夢見る風景を私も見てみたい。同じ風景を見るためには、同じ方向を見て、同じように進んで行かなければならない。だから、私は「いまは未だよく分からないけども、進めながら分かることを増やしていく」ソフトウェアづくりを自分の事業として選んだ。

 3年で、のべ200件くらいのサービスづくりや事業開発の支援をしてきた。体力が問われるけども、充実した日々だった。数多くの出会いと学びがあった。毎日が自分にとっての成長であり、変化だった。この意味で起業というのは大変メリットの大きい働き方といえる。組織に依らない働き方は今後、誰もが自然と取る選択肢になるだろう。当然、自分で自分の責任を背負うので、あらゆる意思決定を速くできる。あるいは納得いくまで判断しなくて良い。その基準も自分次第。そんな状況に私も生きがいを感じていた。

 でも、ある日気がつくと、判断を少しだけ遅らせている自分がいた。少しだけ、少しずつ。その変化は2017年になって、はっきり自覚するようになった。

2017年の話

 やっていることに、変わりはない。不確実性が高く、挑戦的な仕事だ。ビジネスを立ち上げることへの真剣勝負だ。しかし、一方で、このプロダクトが世の中にもたらす意味とは何だろうかと、疑問を持つことも増えていた。ビジネスとしては勿論値打ちがある。でも、ユーザーにとってはどうか。良さそうに思う。…本当に?後からビジネス側の都合の良い意味づけをしているだけではないのか。ビジネスとしてやっていること、判断は間違っていないが、それ以上の意義は、無いかもしれない。

 自分の変化を上手く説明する言葉や考え方が見いだせず、しばらく悶々とした日々を送っていたが、やがて自分がこれまでの価値基準(ビジネスになるかどうか)だけでプロダクトをつくることに抵抗を感じているという気付きに辿り着いた。ビジネスになるということは、スケールするということだ。スケールは、サービスが最初から背負わされている運命の十字架だ。スケールしないサービスは価値がない。この世の中では、荒波の波間にあっという間に消えてしまう存在だ。

 一方で、儲かる儲からないとは異なる価値基準も、確かにある。値段はつけられなくても、自分の人生にとって後押しとなるようなことがたくさんある。それは本当に些細なことも含まれる。ひとから掛けられる励ましの言葉や、具体的な行動。それは何かの記事をシェアすることだったり、イベントを手伝ってくれることだったり。サービスの最初のユーザーになって、フィードバックに協力をしてくれることだったり。貢献と感謝でなりたつ関係。当事者たちにとっては確かな力となるが、スケールを約束しなければならないビジネスからは遠い世界観だ。

 しかし、立ち止まって周りを見てみると時を同じくして、同じようなことを考えている人たちもまた現れてきていることに気付いた。私の疑念はマクロで言えば資本主義の終焉に含まれるものであるし、あり方としては贈与や時間系のサービス、仮想通貨と繋がっていく。2017年は世の中としても、私個人としても、大いなる境目の年なったんだと、きっと後から思えるはずだ。

 だからこそ(といっても、その時は無我夢中でしかなかったけども)、この年に私は新たな会社をもう一つ立ち上げたのだ。進行形で、あるソフトウェアを作っている。お金だけでは評価できないことを、扱えるようにするためのサービス。どういう形で、機能であるべきか前例がないため、何かにつけて時間がかかる。ましてや関わってくれているメンバーも全員、もともとの仕事を抱えながらの、複線的な関与だ。割り当てられる時間に制約がある。なお、ひとりの人が複数の事業や組織に関わりながら仕事をする、こういう働き方もこれからは増えていくことだろう。

2018年の話

 2017年が境目ならば、2018年からは違う時代に入っていくことになる。この見方は既にワンテンポ遅いといえるかもしれないが、まあ、ミレニアム世代に入れてもらえなかった世代らしい見方といえばそうかもしれない。

 今の自分は、方向性が見えてずいぶんとすっきりとした気分だ。これからの日々がまた楽しみな、そんな年にきっとなる。

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