インセプションデッキづくりで何をしていることになるのか?
期初にあたるためか、最近インセプションデッキづくりに携わることが多い。ほぼ毎時間、デッキをつくっている日もある。今更、インセプションデッキ?と思われる人もいるかもしれないが、デッキの有効性はいまだにある。むしろ、めちゃくちゃ高い。
というよりは、デッキレベルの認識あわせもできていない状況で、プロダクトづくりなり、プロジェクトなり始めたところでうまくいくはずもない。ところが、このくらいの内容でさえ合っていない、おざなりになっていることが少なくない。デッキが登場して10年以上経過しているがいまだその有用性が変わらないというのは、この領域("仕事の方向づけ")は果たして進歩しているのか?と不安もよぎる。やっていくよりほかない。
念の為に書いておくと、インセプションデッキとは書籍「アジャイルサムライ」で紹介されているプロジェクトや仕事の方向性、条件について認識をあわせるツールであり、その活動のことを指している。なお、「プロジェクト」を言葉として選ぶことが多いが、プロジェクトに限らず、プロダクトづくりやその他の仕事においてもデッキは活用できる。
なぜ、インセプションデッキが必要なのだろうか? デッキづくりを行わずに仕事をはじめたとすると、端的にこのような状況になる。
プロジェクトの与件とは、目的や目標、実施の範囲、実行にあたっての判断基準、対象となるステークホルダー、リスクなどのことだ。仕事を実行していく上で、前提とおくべき事柄を指す。前提がわかっていないまま(「与件」にクエスチョンマークがついている)、あるいは自分は分かっているつもりだが、ほかのメンバーとあわせられていないままで、成果を出せるはずがない。
だから、インセプションデッキづくりを通じて、前提理解の合わせ込みを行う。このプロジェクトは、実行できる状況、体制にあるのか、をチームメンバーやステークホルダーと確認しあう。いわば、プロジェクトがレディ(準備OK状態)かを検証するのだ。
たまに、デッキで認識合わせを行っていると、そもそもプロジェクトの目的、目標が不明確で、ていを成していないという状況に直面することがある。デッキは、言ってみれば与件に対する妥当性確認の役割にあたる。
より砕けて言えば、「チェック機能」なのだ。目的、目標自体をゼロから定義するツールとしては不足するところがある。デッキの「われわれはなぜここにいるのか?」という問いで出てくるのは、あくまで参加者が顕在的あるいは潜在的に思い描いていた対象であり、何か分析的な営みがそこにあるわけではない。「チェック機能」で、目標自体を作ろうとする人はいないだろう。そのプロジェクトを立ち上げる背景から、課題の分析を踏まえて、望ましい目標を設計するなど、別の営みが必要になる。
ただし、デッキは問いの役割を果たすのには違いない。目的、目標自体をゼロから決めきることは難しいかもしれないが、集まった人たちの思惑を言語化し、可視化することはできる。それからプロジェクトとしての与件として不足していることを固め直す、あるいはまとめ直すということはやれなくない。プロダクションコードより先にテストを書く、テスト駆動的アプローチになる。
先に、プロジェクトがレディかを問い、レディであるためには逆にこういう目的目標が必要だ、という答えを見つけ直す考えは取れる。ただ、それでもデッキづくりの参加者に、何らかの考え、アイデア、仮説がなければ問いは大きく空振りすることになるだろう。自分たちの中にゼロではなく、小さくとも何らかの芯をもった上でデッキづくりをはじめよう。むしろ、ゼロの状態で始められるプロジェクトなど存在しないだろうけどね。