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絶望の中の希望 2021 第一節 鹿児島U対ガイナーレ鳥取

2021年シーズン第一節 鹿児島U対ガイナーレ鳥取

ハイライト動画
https://youtu.be/_1MJwHFlfTw

開幕戦で2点リードしながら、後半に3点取られて逆転負けしたら普通は落ち込みますわな。そら。
でも不思議と悲壮感はないんです。それは新しく就任したパパス監督がどういうサッカーをしようとしているのかが見えたから。

アーサー・パパス監督が就任して初めての試合。どんなサッカーを見せてくれるのか楽しみに待っていました。
昨年までの鹿児島は、攻撃は個人のタレント任せだったので、横浜Fマリノスのヘッドコーチだったパパス監督の手腕が期待されるところでした。

まず先発を見て驚いたのは酒本選手が先発落ちしたことです。ただこれはある程度予想はできました。酒本選手も36歳ですし、足が速いとはお世辞にも言えません。パパス監督が激しくプレスをかけるサッカーをすることは予想されていましたので、その戦術に酒本選手が合わなかったということだと思います。年齢的にいっても1試合に何度もプレスをかけるのも難しかったのでしょう。ただ昨年までは鹿児島の攻撃を司る全能の選手だっただけに、実際に先発落ちしたのを見ると少し驚きがありました。

またパパス監督はマリノスでヘッドコーチをしていたので、ポジショナルプレーを指向することも予想していました。酒本選手は一応ポジションは決まっていましたが、試合中はまるでフリーマンのように自由にポジションを取って低いポジションまで落ちてきてビルドアップに絡むこともあれば、中盤から魔法のようなスルーパスを通すこともありました。ただ酒本選手がポジションを固定しないと相手はマークしずらくなりますが、同時にボールを失ったときに酒本選手のポジションにスペースができるわけで、そこを相手に使われることもしばしばありました。

昨年までの鹿児島はボールを持って攻撃はできるけども、カウンターからの失点も多いチームでした。パパス監督はボールを失った場合、すぐにプレスをかけて取り戻しに行きたいはずなのも酒本選手の先発落ちの原因のひとつでしょう。

そしてホーム白波スタジアムにシーズン開幕を告げるホイッスルの音が響きます。そしてキックオフ直後から鹿児島が面白いように攻撃をします。基本的に鳥取はツートップが前からプレスをかけに来ます。一方の鹿児島はセオリー通りに数的優位を維持しながらボールを前進させようとします。時にはGKの大西選手が上がってきて数的優位を確保しながらボールを前進します。鳥取は3バックだったので前からプレスをかけたのに、ボールを前進されるとサイドのスペースが空いてしまい、そこをサイドに開いた野嶽選手に使われる場面が何度もありました。そこで相手CBと1対1になり、鹿児島の選手が素早くサポートして2対1の数的優を確保すると面白いように裏のスペースを使えました。

そして先制点の場面もそのような流れの中から生まれました。CBのウェズレー選手が前からプレスをかけようとする鳥取の選手をあざ笑うかのようにロングボールで右サイドにはっていた野嶽選手にパスを通します。そうなると前からプレスをかけようとしていた鳥取のウィングバックの選手が戻りきれません。鳥取の3バックの一人がサイドに出てきます。ところがそうすると今度はゴール前のCB二人との距離が空き、スペースができます。そこにインサイドMFの五領選手がインナーラップで入って来ます。ドリブルで仕掛けるフェイントをかけた野嶽選手が五領選手にパスを出すと、ゴール前に残っていた鳥取のCB二人のうちの一人が飛び出してきます。この時点でゴール前は1対1の状況ができています。しかもファーサイドには完全にフリーの鹿児島の選手もいて、鹿児島はゴール前で2対1の数的優位を作れていました。五領選手はダイレクトでゴール前にパスをします。ここでFWの薗田選手がダイレクトで流し込んで鹿児島は開始わずか2分で先制点を上げます。

前半の鳥取は前からプレスをかけようとはしていたのですが、鹿児島が最終ラインでワンタッチ、ツータッチでボールを回すので、鳥取の前戦の選手はプレスをかけるタイミングを計れません。鹿児島の選手間の距離も適当で、うまく幅を取れて攻撃できていました。この調子では何点取れるかわからないなと思いながら見ていて、実際に何回も決定的なチャンスを作れていました。しかしながら前半は1対0で折り返します。

攻めているときに点が取れないと厳しくなるなと思いつ後半がスタートします。そんな懸念を払拭するかのように後半開始直後の4分にCKから追加点を取ります。今日はこのままいけると思ったし、その後のピンチもGKの大西選手がファインセーブで防いでいたので問題ないように思えたのですが、後半の64分にCKの混戦の中から失点してから、鹿児島の歯車が狂い始めます。

交代するまで右SBの衛藤選手がうまく幅をとって鳥取のプレスを回避できていたのですが、代わって入ったフォゲッチ選手はどちらかというと中にポジションを取り始めます。するとDFラインからボールを前進されるのが難しくなり始めます。時々八反田選手が気を利かせてサイドに開くときはありますが、DFラインで幅が取れなくなった鹿児島はボールを前進させるのが難しくなりました。

そうなると鳥取はプレスをかけやすくなるので、前からプレスをかけます。プレスをかければボールが取れるので、自信を深めた鳥取のプレスはますます強くなります。鹿児島で幅を取っているのは、ウィングの選手だけなので、そこにパスを出すのですが距離があるので、そのパスも鳥取のSBにインターセプトされてしまい波状攻撃をされます。

逆に鳥取はボールを奪った後に幅を取りながら攻撃してきます。そういう中から73分に左サイドからのセンタリングに合わされて同点になります。その後は酒本選手達を投入し、鳥取ゴールに迫りますが得点は奪えません。そうしている間にアディショナルタイム突入し引き分けが濃厚になってきた92分にCKから鳥取に決勝点を奪われてしまいます。

開幕戦で2点リードしながら、後半25分間で3点取られて逆転されたら落ち込みますよね。でも少したつとそれほどの悲壮感はないことに気がつきます。少なくとも後半の途中までは相手を圧倒した戦い方ができていたわけです。恐らくパパス監督のやりたいことができていたと思います。

昨年までの鹿児島は個人能力に頼った攻撃が多かったのですが、今年はきちんとしたポジショニングから組織的に攻撃ができて、実際に決定機を作れていました。そこはとても良かったと思います。正直、試合前にはあまり期待していませんでした。新しい監督が全く新しい戦術を植えつけるのには時間がかかります。シーズン中盤くらいまでには、うまくいくようになればいいくらいに思っていました。最悪、今シーズン一杯かかってもいいとすら思っていました。J3は下に落ちる心配がないですからね。でも開幕戦で新監督がしたいことの一端がもう見えたのは望外の喜びでした。

特に今年新加入したウェズレー選手はとても良かったですね。サイズがあって、ポジショナルプレーに必要な戦術的な理解もあり、プレー選択も的確でした。縦パスを入れる勇気と正確な技術もありました。正直リードしているときにCBから縦パスが入るとボールを奪われないかとドキドキするのですが、そんなこともほとんどなかったですよね。

なので逆転負けたとはいえ、落ち込んではいません。次につながる敗戦だと思います。ただ解せないのはフォゲッチ選手が中にポジションに取り始めたのが、本人の判断なのか、監督の指示なのかが気になります。でも多分監督の指示なんですかね。サイドにいるべきSBが勝手に中に入ってきたら普通監督は激怒しますものね。

パパス監督は昨シーズン、出だしが悪かったので今年はスタートダッシュを決めたいような発言をされていますが、シーズンは長いので徐々に成長してチームとしていいゲームができるように願っています。

次は3月20日のアウェー熊本戦になります。

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