REVIVE 第十三章
第十三章 地元の子供たちに「夢」を聞く
前回までのお話
夢の街プロジェクトの始まり
拓真は「夢の街プロジェクト」というアイデアを思いついた。地元の人々が理想とする街を形にすることで、地域の活気を取り戻そうという計画だ。商店街の店主や高齢者から集めた意見を参考に、少しずつ未来像を描き始めた。
プロジェクトの準備のため、拓真はH商店街やイオン亀岡、道の駅ガレリア亀岡を訪れた。H商店街では、1958年創業の老舗「さか井食堂」の店主が懐かしそうに語った。「昔は、商店街に活気が溢れていたんだよ。もう一度、あの賑わいを取り戻したいね。」
次に訪れたイオン亀岡のフードコートでは、主婦たちが「子どもが安心して遊べる場所がもっと欲しい」と口を揃え、ガレリア亀岡のファーマーズマーケットでは農家たちが「地元の食材をもっと多くの人に知ってもらいたい」と語った。
だが、街の人々からの声を集めながらも、拓真は心の中に何か物足りなさを感じていた。集まった意見は貴重だが、どこか大人たちの視点に偏っているように思えたのだ。
鶴見さんとの出会いと新たな視点
そんなある日、H商店街を歩いていた拓真は、偶然、鶴見さんと出くわした。
「お前さん、いい顔してるな。なんか企んでるのか?」
拓真は「夢の街プロジェクト」の構想を話したが、鶴見さんは静かに聞いた後、思いがけない提案をした。
「今まで住んでる人の声を聞くのも大事だが、これからの街をつくるのは今の若い世代だ。子どもたちの夢も聞いてみろ。それが、本当に意味のある街になる鍵だ。」
拓真はその言葉に目が覚めたような気がした。彼は、さっそく地元の子どもたちの声を集めることにした。
子どもたちの夢と少年の告白
最初に向かったのは、イオン亀岡のプレイエリア。そこで出会った子どもたちは、「大きな公園があればいいな!」「動物園もほしい!」と、目を輝かせて夢を語ってくれた。その無邪気さに、拓真は自分が忘れかけていた感覚を取り戻すような気がした。
次に、ガレリア亀岡のファーマーズマーケットでは、「もっと楽しいお祭りが増えたら嬉しい!」と子どもたちが声を上げ、笑顔が広がった。
そして最後に、H商店街の「さか井食堂」の前で、学校帰りの子どもたちと話す機会を得た。彼らは「もっと面白い店があったらいいな」「みんなで集まれる場所がほしい」と、次々と自分たちの理想を語ってくれた。
その中で、ある少年の言葉が拓真の心に強く響いた。
「この街で、大人になってもずっと暮らしたいって思えるような場所にしたい。」
少年の瞳は真剣だったが、その裏には複雑な感情も見え隠れしていた。拓真は思わず、その言葉の重みを考えさせられた。亀岡は、豊かな自然に恵まれ、京都の郊外という恵まれた立地にあるが、若者にとっては必ずしも魅力的な場所ではない。地元で育った子どもたちは、大学進学や就職を機に都会へと出ていき、多くは戻ってこない。企業の数も限られており、就職の選択肢が少ないからだ。
「ここには自然や伝統文化がある。でも、それだけじゃ暮らしていけない。」少年は続けた。
「親たちは、都会に出ていい大学に行って、いい会社に入るのが一番だって言うけど…僕は、ここにいたいんだよ。でも今のままじゃ、将来ここで仕事を見つけることも難しい。」
拓真の決意と未来への一歩
少年の言葉に、拓真は何も返せなかった。彼自身も若いころ、東京に出て都会の暮らしを選んだ人間だ。だが、亀岡に戻った今、地域の課題がより鮮明に見えている。地元に戻りたくても、仕事がない。戻ったところで、地元に同世代の仲間が少なく、暮らしを楽しむ余裕もない。結果として、若者は都会に出たまま戻らない。その循環を断ち切らなければ、「夢の街プロジェクト」は机上の空論に終わってしまうかもしれない。
拓真は、その少年の言葉に自分自身の葛藤を見た。都会に夢を追い求めた自分と、地元に根付こうとする彼の姿は対照的でありながら、本質的には同じ問いを抱えていたのだ。
「都会に行かなくても、ここで夢を叶えられる街にしたいんだね?」拓真が尋ねると、少年は力強く頷いた。
「そう。みんな、ここに戻ってきたいって思える街にしたい。」
その言葉を聞いた瞬間、拓真の中で何かがはっきりとした。地域を再生するためには、ただ施設を増やしたり、祭りを増やすだけでは不十分だ。若者が将来を描ける場所
――仕事があり、仲間がいて、家族を持ちたいと思える街――そんな環境を整えなければ、本当の意味で地域を再生することはできないのだ。
「俺がやるべきことは、子どもたちが夢を叶えられる街をつくることだ。それが、大人たちにも希望を与えるんじゃないか。」
拓真は、少年との会話を心に刻んだ。そして、その日聞いたすべての夢と希望をノートに書き留めながら、新たな決意を胸に抱いた。
「このプロジェクトは、ただの街づくりじゃない。未来への道を作るんだ。」
拓真は、このプロジェクトの次のステップを具体的に考え始めた。地元企業との連携、新しい仕事の創出、地域資源を活かした観光やクリエイティブな事業――若者が都会に出なくても、ここで生きていける道筋を作ることが必要だった。そして、それは今いる子どもたちが、大人になったときに戻ってきたくなる街を作ることに他ならない。
「この街を、みんなが誇りに思える場所にする。」
少年との約束を胸に、拓真はさらに強い決意を持ってプロジェクトに取り組むことを誓った。未来を変えるのは、夢を信じる力と、行動する勇気なのだ。