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ZUZUとトノバン

若い人たちに、あの存在感をどう伝えたらいいんだろう。多くの日本人が、欧米に対して劣等感を持ち、アメリカに幻想を持てた時代をご存知ないみなさんにどうやって伝えようって思う。

さて

ZUZUというのは安井かずみさん。トノバンというのは加藤和彦さん。

安井かずみさんは生涯に4000曲以上の歌を作詞したという作詞家であり、エッセイストであり、当時のファッション・リーダー…いや、ファッションだけじゃないな。ライフスタイルの全部が、先端的で憧れの的。トップ・サイダー中のトップ・サイダー。

でも、逆に完璧すぎてコピー不可能、汎用不可能といった感じの方。

加藤さんだって、1960年代には、かの「ザ・フォーク・クルセダーズ」の中心メンバーとして、たった300枚しかつくれなかった自主制作盤から誰もが知る大ヒット曲を出し、後世になればなるほど評価の高まる「イムジン河」を送り出し、さらに1970年代には「サディスティック・ミカ・バンド」を率いて、ロキシー・ミュージックのオープニング・アウトとしてイギリス・ツアー。当時としては、あまりにも先駆的なミュージシャンだった。

(イギリス・ツアーが、かぐや姫の「神田川」発売の一年後くらいなわけだから)。

このお二人が1977年にご結婚される…加藤さんが8歳年下のダンナ様。結婚披露宴は、銀座のマキシム・ド・パリだったそう。

玉村豊男さんの奥様の抄恵子さんが、ご主人に、「突然『きょう、加藤さんと安井さんが泊まりにくるよ』」といわれて、すごく緊張して掃除をしたのを憶えているとおっしゃっているそうですが(島崎今日子著「安井かずみがいた時代」から)これは象徴的な一言だなーと思う。

着るものだけじゃなくて、クルマも趣味も、もちろん職業も、なんでも完璧にカッコいい…だから、彼らに悪気がなくても、周囲の凡夫には「威圧的」であるという感じ…今ならば、たぶん「痛い」とか言われちゃうような存在だったのかも知れない。

(GACKT氏に準えちゃダメだ)

清国という大国に戦争で勝利して、ロシアに勝利して、でも、天狗の鼻をへし折られるようにアメリカを中心とした連合国に大敗北を喫する…その反動からか、戦後のわが国の「ワンランク上」はいつもアメリカやイングランド、フランス。1961年生まれの僕も、高校を卒業する頃までは、全ての風はアメリカから吹いてと思っていた。

安井さんや加藤さんは、その時代のヒロインでありヒーローであり「海外と伍してやっていける、数少ない日本人」だった(と思っていた)。

「かわいい」が世界共通語になるなんて想像もつかなかったし、経済的に成功しても「エコノミック・アニマル」なって揶揄されちゃうし、この国も、僕も、自信がなかった。そして、せいっぱい虚勢をはっていた。アメリカ人に負けないぞって…

今は、この国の美しさにプライドをも持てるし、この国の歴史や文化に世界に冠たる自信を持つことができる(あいかわらず、民主主義は三流だけど)。つくづく有難いことだと思う。

たぶん、これから先の日本に「ZUZUと呼ばれる安井かずみ」のようなヒロインは誕生しないと思う

ちょっと哀しかった時代は、もう終わりかな、終わりにしなきゃね。

※ 写真は島崎今日子さんの著作
「安井かずみがいた時代 」(集英社文庫)の表紙