第三者特別処置及び更生能力検定試験
1988年、目黒の雑居ビルの一室にて。特生業サラリーマン・浅井は実用・技能第三者特別処置及び更生能力検定試験、、、通称三特の1級面接を前にしていた。
「どうぞ。」
面接官の声が聞こえる。
「失礼します。」
「特生業の本懐について説明してください。」
{はい。社会全体が豊かになった今、自己による人生計画の確立だけではなく、「有害」な他者を人為的に操作・及び破損させることによって顧客・ひいては社会全体の発展に奉仕するためです。}
面接はとても単調に、意義を感じられないような、まるで教科書を音読したかのような答えで埋め尽くされた。しかしこれで十分なのだ。特生業界は深刻な人手不足の元にある。一刻でも早く即戦力を必要としている。
数十分後、面接は終わり、それと同時に一人の老人が入ってきた。
「お、これはこれは。面接中だったかな?すまんね。」
面接官は立ち上がった。
「会長、お疲れ様です。」
浅井に会長と呼ばれる男は話しかけた。
「君が浅井君だね?」
「はい。お初にお目にかかります、榊原会長。」
榊原仁。三特、ひいては特生業そのものを作った男だ。
「浅井君は殺しの腕がいいんだってね?本部でも評判になっているよ。」
「会長、殺しは、、、」
面接官が言う。
「おお、すまない。今じゃ特別処置か。」
「では浅井君、私と少し話をしよう。」
「ええ。」
「君は松の盆栽を見たことはあるかね?」
「はい、何度かは、、、」
「松は無数の刃の集合体だと私は考えている。しかし、見事な刃でも枝ごと根元から切り落とさなければいけない。全体の景観のためにな。」
「切り落とされた枝の断面にはまた別の枝が継げられる。それがどんなにいびつな形であってもいつかは元の木と同化し、一つの形となる。美しくも、醜く。」
「君はこの社会で今後多くの人間に触れ、対話し、融和し、衝突し、多くを殺めることになるだろう。その度松の盆栽を思い出してみてくれ。あの凛々しくも雄大な姿を。」
続く
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