本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年11月21日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ヘルソン情勢に関するロシア情報空間の過剰反応
報告原文抜粋(英文)
日本語訳
ロシア国防省ならびにロシア当局者は、ヘルソン州東岸(左岸)におけるウクライナ軍作戦行動にまつわるロシア側のヒステリックな過剰反応を抑え込むことに目下、苦慮している。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、11月21日のロシア国防省の諮問会議において、ウクライナ軍が「ヘルソン方面での上陸作戦」を成功裡に実施しようとする試みすべてを、ロシア軍は阻止していると主張した。ショイグはさらに、ロシア軍はウクライナ軍に対して「壊滅的な」損害を与えているところだとも主張した。これらのショイグ発言は、ロシア軍がドニプロ川東岸のウクライナ軍攻撃を決定的に撃退できていないことへの一部ロシア軍事ブロガーの懸念を低く見せる試みである可能性が大きい。だが、ショイグ発言がロシア情報空間内でいまだに広がりつつある不満感を宥める結果につながる可能性は小さい。
ロシア軍事ブロガーは、ヘルソン州東岸(左岸)にウクライナ軍が展開中である事実を認める発言を続けており、ロシア軍がこの地域でのウクライナ軍作戦行動を抑え込めていない点に関して不平不満を述べ続けている。11月21日にあるロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がクリンキ(ヘルソン市から北東に30km、ドニプロ川から内陸に2km)周辺でロシア軍強襲グループ全員を戦死させたと主張した。11月17日にロシアのインサイダー情報筋の一つは、1回のウクライナ軍の火力打撃で第35自動車化狙撃旅団(中央軍管区第41諸兵科連合軍)第1大隊のロシア将兵76人が戦死したと主張した。この情報筋によると、同大隊が11月10日にヘルソン州東岸のスカドウシク地区で「牽制機動」を行おうとしていたときの出来事とのことだ。クリンキ付近で行動中の第810海軍歩兵旅団(黒海艦隊)に所属しているとされる一人のロシア兵は、11月21日に拡散した動画のなかで、ロシア軍はまだ怪我から回復しきっていない兵員に強襲攻撃を遂行するよう強要していると主張し、クリンキ地区で行動中のロシア兵一人につき3機のウクライナ軍ドローンが存在しているとも主張した。あるロシア軍事ブロガーは11月21日にクリンキ地区で任務につく一人のロシア兵からの手紙と称するものを公表したが、そのなかでその兵士は、クリンキ地区のロシア軍には偵察用ドローンがないため、移動は緩慢になり、ウクライナ側から攻撃される危険にさらされていると主張した。このロシア兵とされている人物の主張によると、クリンキ地区のロシア軍はまた、火力支援を受けられずにいるとのことで、その理由は、砲兵・迫撃砲部隊が対砲兵射撃を避ける目的で、「数発」撃つとすぐに配置場所を変えてしまうことにあるという。このロシア兵は、特に自分の部隊は隣接して行動中のほかの友軍部隊とまったく連携が取れていないと主張した。また、ヘルソン方面ロシア軍司令部は、不正確で遅延した情報を受け取っているため、上手くいかない計画しか立案できないとも主張している。さらにこの兵士は、ヘルソン方面ロシア軍司令部が諸々の修正をできずにいたことが、ウクライナ軍攻撃の増加という結果を招いたとも主張した。あるロシア軍事ブロガーの主張によると、一部のロシア人テレグラム・チャンネルは、ヘルソン方面でのロシア軍作戦への批判を、ロシア軍「ドニエプル」部隊集団司令官ミハイル・テプリンスキー大将に集中して向けていこうとしているが、それに成功していないと主張した。なお、軍事ブロガーたちはショイグの意見に反応を示していない模様であり、これら軍事ブロガーの不平不満の促進に一役買っているかもしれない大きな変化がヘルソン州で起こっていることを、ISWは確認していない。