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【記事和訳】ウクライナ情勢記事:「対砲兵火力の難題:増しつつある、はっきりとした懸念材料」(Frontelligence Insight, 01.02.2024)

はじめに

上記リンクのSubstack記事(“Counter-Battery Fire Challenges: An Evident and Growing Concern”)は、ウクライナ軍予備役将校のTatarigami氏が創設した戦況分析チーム「Frontelligence Insight」によるウクライナ戦況分析記事です。

このnote記事は、そのSubstack記事の日本語訳になります。なお、翻訳記事中で使用した画像は、原文記事のものを転載して使用しました。

日本語訳 「対砲兵火力の難題:増しつつある、はっきりとした懸念材料」

2022年末と2023年の初めにウクライナが砲弾不足に対処していた際、Frontelligence Insightはある一貫した傾向を確認していた。それは、ロシア軍の慢心が増し、自軍の砲兵を固定した地点に長期間、ときには数カ月間も配置したままにしていたという傾向だ。この慢心が生じた原因は、ウクライナがロシア軍砲兵に対して効果的に反撃できず、ロシア軍砲兵を制圧できなかったことにあった。この悪い状況が続いたのち、ウクライナはこれら砲兵陣地を目標にした攻撃を開始した。そのための手段として使われたのは、主にハイマースと火砲であり、ときおりFPV[一人称視点]ドローンも投入された。米国の促しによる韓国からの決定的といえる砲弾供与は重要な役割を担い、この1年間、ウクライナ軍が何百もの火砲を無力化することを可能にした。

2024年の進展を評価分析する際、私たちのチームはこのパターンが再現していることを見つけ出している。1月だけで、Frontelligence Insightは14箇所を超える砲兵及び敵軍の集結を記録しており、これは2023年春に観察できたことに似ている。私たちが推察するに、この再現はロシア軍内での恐怖心の減少を象徴しており、この状況はウクライナ側の砲弾不足が再び始まったことによって促進されている可能性がある。

ウクライナ領ルハンシク州シェヴェロドネツィク地区
48.98860, 38.62302 | 2024-01-17 12:05 UTC
©️Frontelligence Insight
[※赤い点線囲いは、車両用掩蔽壕を示している]

このことをはっきりと示す例[*注:上記画像のこと]のなかに、車両用掩蔽壕の存在が確認できる。その一部には補給物資が保管されており、そのほかは車両用に使われている。私たちのチームはこの地点をずっと監視しているが、ここは複数週間、運用中の状態にある。狭い場所に装備が集められていることが目立つこの場所は、前線から遠くないところに位置している。

はっきり述べておく必要があるのは、上述の状況がウクライナの対砲兵戦能力の完全な欠如を示唆しているわけではないということだ。継続して行っている公開情報分析[OSINT]プロジェクトによって、ロシア軍の火砲損失は継続的に記録されている。だが、すでに述べてきたパターンは、不十分な対砲兵火力の難題がずっと続いていることを示している。残念ながら、このような状況は、ロシアが自身の典型的なアプローチを遂行することを、力強く後押ししている。このロシアの典型的なアプローチというのは、次のようなものだ。市街地エリアを組織的に破壊し、市街地での防衛を不可能にさせる。そして最後は、この破壊した居住地域の「解放」を主張する。

このアプローチの最も悪名高い事例として、マリインカの事例は際立っている。この場所でロシア軍は町全体を組織的に破壊した。その結果、住宅や何かしらの構造物の痕跡は、ほとんど何も残っていない状態になった。容赦ない砲撃が、マリインカがかつてここにあったことを思い出せないほどに、この集落を消し去ってしまった。その目的は、破壊ののちに侵略者どもが解放の主張をするというだけのものだった。

ウクライナ領ドネツィク州マリインカ
47.938109, 37.510012 | 2024-11-07 08:19 UTC
©️Frontelligence Insight

ロシア側の目的は明白だ。つまり、世界に向けて、ウクライナが敗北への途上にあることを喧伝することだ。現在の悪い流れが続いていく場合、ロシアはこのアプローチを持続させて、西側の支援があっても、継続する戦争のなかにウクライナの勝機はなく、この国は敗北者であると、西側諸国に信じさせようとする可能性がある。

私たちのチームが強調したいほかの重要な側面に、FPVドローンの役割がある。昔からの砲兵の役割を置き換えることが可能な革命的ツールとして、FPVは当初、熱狂的に歓迎されたが、実際の現状が明確に示しているのは、FPVドローンは、現在の技術的発展段階においては、敵砲兵に反撃するための包括的な解決策になっていないということである。私たちの観察結果に基づくと、かなりの数の火砲が、前線から15〜24kmほど距離を置いた地点に位置しており、その結果、それらの火砲は、通信を増強するための信号中継用ドローンを投入しない限り、ほとんどの小型FPVの実用航続距離外に位置することになる。それに加えて、気象条件の悪さや電子戦による干渉といったものは、ドローンとの通信を強化しても、上述の距離のおけるFPVの有効性を著しく阻害し得る要素になる。

敵砲兵との交戦におけるFPVの成功を示す事例が多くあげられているが、これらの成功事例は回数としては少なく、戦局全般に大きな影響を及ぼすほど十分に多くみられるものではない。時間が経つにつれて状況が変わっていくことが予期されるものの、対砲兵戦においてFPVが及ぼす影響は、全体としてみると小さ過ぎる。

GLSDB[地上発射型小直径弾]がウクライナに届くとされているが、それが届くならば、実際のところ、大きなターニングポイントに示すものになり得る。とはいえ、とりわけこの兵器が大規模通常戦争下で検証されていないという特質を考えると、断定的な結論を引き出すのは、まだまだ時期尚早だ。

ウクライナが西側からの支援にのみ依存しているわけではないことに、注目しておきたい。ウクライナは自国製155mm榴弾砲、特に2S22ボフダナを生産する努力を続けている。「ディフェンス・エクスプレス」が報じているように、「ウクライナ・プラウダ」によると、ウクライナは現在、この自走榴弾砲を30両実戦投入しているとのことで、また、月産6両のペースで製造されているとのことだ。2S22ボフダナは射程35〜40kmにおける確かな交戦能力を示している。この射程は、ロシア軍火砲の大半を安全な位置から狙うのに十分な距離だ。だだし、問題となるのは、膨大な数の敵軍火砲の存在であり、その数は数千にも及ぶ。ウクライナが自由に使えるこの自走砲の数が30両に過ぎないことを踏まえると、戦局全般に及ぼす影響は、極めて限られたものだ。

まとめると、ロシア軍火砲に対して効果的に反撃することに関するウクライナ側の困難さが増していることは事実だと、私たちのチームは考えている。状況は壊滅的と描写するほどではないにせよ、ウクライナに大きなダメージを与え、外国からの支援を阻害する機会を、今の状況はロシアに与えている。少なくともウクライナにかかる圧力を幾分か弱めることになる砲弾の追加供与といった、EU及び米国による緊急措置がなされれば、それは、ここで述べてきた諸課題を緩和する一助になり得るだろう。

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