本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年2月18日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ方面戦況ほか
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
アウジーウカ後背のあまり遠くない地点に、今後、ウクライナ軍が新たな防衛線を確立できる可能性は高く、この防衛線によって、アウジーウカ地域でのロシア軍攻勢の攻勢限界が促進されることになる可能性は高い。2月18日のロシア国防省の主張によると、ロシア軍中央部隊集団の所属部隊はアウジーウカを完全に占領し、この地域で8.6km戦線奥へと進撃したとのことだ。また、ロシア軍がドネツィク州内でさらに領土を占領するために攻勢作戦を続けているともロシア国防省は主張した。2月18日にロシア軍事ブロガーの一部は、アウジーウカから西の地点で、入念に準備された防御陣地をウクライナはもっていないと主張したうえで、アウジーウカから撤退したウクライナ軍は「混乱して」「無秩序」であり、このようなウクライナ軍の背後にあるドネツィク州西部へと、ロシア軍はさらに進撃できるだろうと主張した。これらのロシア側主張を裏付ける、潰走して退くウクライナ軍が映っている動画を、ISWは今のところ確認していない。また、このような動画を入手できるロシア側情報筋の通常のパターンを考えると、仮にウクライナ軍の撤退が大規模に無秩序であった場合、それが映った動画をISWがすでに確認していてもおかしくない。一方で、ロシア軍事ブロガー・アカウントの一つは、ウクライナ軍は事前準備済みの防衛線へと後退したようで、アウジーウカ戦線が大規模に崩壊した可能性は低いと主張しており、戦線上のこの地区におけるウクライナ軍防衛能力に関するロシア側の理解(もしくは認識)が、情報源によってまちまちであることを示している。
入手できた画像を確認すると、アウジーウカ西方に事前準備済みのウクライナ軍防御陣地がないという主張に裏付けがないことが分かる。なお、現時点で入手した画像を掲載したり、より詳しく詳細を説明するつもりは、ウクライナ側の作戦保全の観点から、ISWにはない。ウクライナ軍統帥部は最近、新たな部隊をアウジーウカ戦線に投入し、ロシア軍への反撃を実施させ、アウジーウカから後退するウクライナ軍に必要な離脱回廊を用意した。これらの新たに投入された部隊が、都市攻撃で戦力を低下させた、アウジーウカ西方に展開するロシア軍を迎え撃つための防御陣地を築き、保持できる可能性は高い。ロシア軍はアウジーウカ占領のために甚大な人的損失と装備損失を被っており、このようなロシア軍が、事前準備済みの防御陣地に配置された比較的戦闘消耗・疲労度の低いウクライナ軍部隊と対峙した際に、攻勢遂行能力の限界に達することになる可能性は高い。
西側からの安全保障支援の遅延が、戦線上の複数地区における、ロシア軍の機会主義的な攻勢作戦の発動を促進している可能性は高い。そして、このようなロシア軍の攻勢作戦は、多数の作戦軸上でウクライナ軍に圧力をかけることを目的としている。[以下、略]
ロシア軍は最近、同時並行的に攻勢作戦を始めることで、2つの好機を利用しようとしている可能性が高い。その好機の一つは、近づきつつある春の雪解けまでの期間であり、もう一つは、はっきりしない西側の支援提供の動向である。[以下、略]
4カ月間に及んだ激しい攻勢作戦を経たうえでのロシア軍のアウジーウカ占領は、ロシア軍の攻勢作戦の進め方の好例といえる。ロシア軍の攻勢作戦の進め方は、より大きな作戦レベルの戦果を導く条件を形成することに必ずしもつながらないが、そうだとはいえ、ウクライナが防衛作戦に必要な兵力と物資を投入せざるを得なくさせている。[以下、略]
ロシア軍は今のところまだ、作戦レベルで大きな戦果を確保する能力、もしくは、広大な領域上で機械化部隊による機動戦を遂行する能力を示していない。そして、アウジーウカ占領をこの種の能力を示したものとして受け取るべきではない。ISWは戦術的戦果と作戦的戦果を区別している。前者は、戦闘が起きている場所周辺で生じた、戦争の戦術レベルで得られる戦果であり、後者は、全戦線上の幅広い地区に影響を及ぼす、戦争の作戦レベルで相当重要な意味をもつ戦果である。[以下、略]