このnote記事は、豪軍退役少将ミック・ライアン氏によるロシア・ウクライナ戦争に関する、上にリンクしたX連続投稿(日本時間2024.01.08, 18:33)の日本語訳である。なお、本記事中で使用した画像は、ライアン氏の投稿に添付されている画像を転載した。
陣地戦は2024年のウクライナの友である
日本語訳
戦場での失敗は敗北の前兆になるうる一方で、勝利へと導く適応と知的刷新の始まりにもなりうる。2023年反転攻勢の目標達成に失敗したことをゼレンシキー大統領が受け入れたのち、この戦場での失敗はウクライナに示された困難な課題である。
この問題は2023年末にザルジュニー将軍が陣地戦[Positional Warfare]に関して記した文書に伴って起こったことだ。不幸なことに、陣地戦を膠着状態と同一視する人が多すぎる。なぜ不幸かというと、陣地戦と膠着状態はまったく別物だからだ。
では、陣地戦とは何なのか? 1990年に掲載された1本のRUSIジャーナル記事が、陣地戦のコンセプトを、冷戦後に欧州の軍隊の前にあらわれてくる可能性の高い戦争形態を幅広い視点で探究する一部として、検証している。陣地戦に当てはまるものとして、ここでなされている定義は引用する価値がある。. . .
. . . 陣地戦を用いる陸軍は、戦闘力を増すために、大地と要塞化陣地を利用して結束した力を維持し、敵側に開かれうる好機を制限しようとする。そのような陸軍は、リソースを動員し、敵側の消耗を増すために、何とか時間を使おうと努める。
私の主張は、2024年のウクライナは、ロシアに大きな成功を一切与えず、ロシアを真っ青になるほど出血させ、2025年のずっと大規模な攻勢に必要な戦闘力を形成するウクライナの物理的・知的・士気的要素を再建して整えていくために、陣地戦を受け入れるべきだというものだ。
陣地戦を採用すれば、ウクライナは以下5つの最優先事項に集中することができる。
優先事項の一つ目はウクライナ陸軍の再建である。個人向け訓練と集団での訓練の双方をウクライナ及びNATO諸国において改善していく必要がある。そうすることで、ウクライナは大規模攻勢作戦の計画と遂行ができるようになる。これをできなかったことが、2023年反転攻勢の課題の一つだった。
次の優先事項は、ウクライナ・西側双方の工業生産能力の再建だ。砲弾製造は極めて重要な問題である一方、ドローン・精密誘導爆弾、対空ミサイル、その他軍事装備品のような弾薬以外の要素の生産もステップアップさせる必要がある。
3つ目の優先事項は戦略の見直しだ。ウクライナに自国防衛に十分なだけのものを与えるが、ロシアを打ち負かすのに十分には与えないという西側の戦略は、変更せねばならない。ロシアをウクライナで食い止め、ロシアのさらなる冒険をとどめさせ、イランと中国に意志を伝えるために、西側の戦略にロシアを敗北させることを含める必要がある。
その一方でウクライナ軍の戦略も、現代戦に適した軍事ドクトリンに向けての再考も含め、変えていく必要がある。なお、現行のNATOの諸兵科連合及びエア・ランド・ドクトリンは目的に適っていない。私たちは知的刷新を進め、戦闘に適した新たなドクトリンと組織を発展させていかなければならない。
優先事項の4つ目は戦略的影響工作の再考と再活性化だ。この一部はウクライナ軍が担うことになる。2022年に祖国防衛の一部として、ウクライナ軍は影響工作を使って鼓舞してきた。
西側諸国はまた、自分たちの仕事をステップアップさせる必要がある。政治家はウクライナを支援する目的を自国民にもっとよく説明しなければならないし、ウクライナの勝利に今、投資することが、現在、西側政府が行っているような、ただぐずぐずと進めていることよりも究極的には安く済む、そして流血も少なく済む理由を、自国民にもっとよく説明しなければならない。
このような状況は、2024年のウクライナが受動的である必要があることを意味するものではない。5つ目の優先事項は、ロシア国内への戦略攻撃であり、ロシアの軍事作戦目標への戦略攻撃であって、また、黒海の海軍目標への攻撃である。これらの攻撃は、来るべき攻勢のための活動を形成するものだ。
はっきりとしていることとして、2024年には、ウクライナが陣地戦を採用するのに伴う政治的課題が生じる。だが、それを受け身の姿勢で捉えるべきではない。それはロシアの勝利が不可避であることを受け入れることではない。
陣地戦を採用することは守備的ではあるが、一時的な戦略として守備的であるだけだ。その間にロシア軍を消耗させ、ロシア軍のドローン・ミサイル攻撃を挫き、ウクライナ軍の戦力を、2025年にもっと大規模で、もっと力強い攻勢ができるように再建する。
今回ここで述べてきた議論に関する私の見解は、フトゥーラ・ドクトリーナ[Futura Doctrina]での最新戦争短評で聴くことができる。
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