見出し画像

【SNS投稿和訳】ウクライナ戦況分析:ドニプロ川東岸クリンキ橋頭堡(Emil Kastehelmi氏)

上記リンクから始まるX(旧Twitter)の連続投稿(日本時間2024年1月16日00:17投稿)は、フィンランドのOSINT分析者で軍事史家のエミール・カステヘルミ氏によるドニプロ川東岸の戦況を取りあげたウクライナ戦況分析です。

この連続投稿を日本語に翻訳したものが、このnote記事になります。

なお、本記事中で使用した画像は、基本的にカステヘルミ氏の投稿に添付されているものです。また、それ以外の画像は、キャプチャ欄に転載元URLを記載してあります。各画像を高画質で確認したい方は、カステヘルミ氏のX投稿にアクセスしてご確認ください。


日本語訳 「ウクライナ戦況分析:ドニプロ川東岸クリンキ橋頭堡」

ドニプロ川東岸、クリンキという村落でのウクライナ側作戦は、2023年10月から続いている。

このスレッドでは、クリンキ橋頭堡の現況と今後について分析を行っていく。

なお、このスレッドの画像には、高解像度の衛星画像が含まれている。

以下は、ヘルソン市解放以降のドニプロ川デルタ地帯における出来事を、時系列順に短くまとめたものだ。この「川をめぐる戦争」は長く続いており、厳しい状況下で行われる場合も多かった。

それにも関わらず、ほかの戦区ほどメディアに取りあげられることは、全体的にみて多くなかった。

クリンキという村落において、ウクライナ軍は長きにわたる厳しい戦闘を続け、今もそれは続いている。ウクライナ側制圧下の地域は少なく、自然環境がもたらす隠蔽は極めて限られている。この村に隣接する森林があるが、ウクライナ軍はそのなかに前進するにはほど遠い模様だ。

この村にあるウクライナ軍陣地に対して、ロシア軍は野砲、ロケット砲、航空爆弾を撃ち込み続けている。建築物等のインフラは甚大な損害を被っており、地表はクレーターだらけだ。以下の写真で、実情の一端に触れることができる。

大型航空爆弾がつくったクレーターは、この村に常駐するウクライナ軍の展開幅を示すものとして役立つ面がある。これらのクレーターは約2,400メートルの距離幅に沿って観測されており、そのほとんどが帯状に並ぶ住宅の最初の列である。このことはまた、最近、この地区からもたらされた位置情報付資料とも結びついている。

川岸もまた、激しく砲爆撃されており、そこにできたクレーターにはすぐに水が溜まる。主要補給ルートがコンカ川であるのは間違いなく、当然のことながら、その場所でロシア軍はウクライナ側の大規模な移動を監視しようとしており、兵站が機能しなくなるよう試みている。

この村全体をウクライナ軍が制圧しているわけではない。現時点でウクライナは、村全体の確保を試みるのではなく、自軍が確保したものの保持におおむね力点を置いている模様だ。ウクライナ当局者もここでの作戦の難しさを認識しているのだ。

数カ月の期間に、ロシアはクリンキ内部に強化防御陣地を2列、構築していた。一つは川のすぐ隣にあり、もう一つは森林寄りにある。そして、これらの陣地の一部はウクライナ軍が制圧している。また、戦闘が行われている間に、ロシアは村落内の東側に新しい陣地を構築したようだ。

ロシア軍はこの橋頭堡に向けて、何度も反撃を行っている。複数の動画が示しているのは、ロシア軍が連携した大規模な攻撃を試みずに、ウクライナ軍陣地に小規模な分遣隊を繰り返し送り込んでいるということだ。そして、このロシア軍の反撃は、多くの場合、いつも同じ方向から行われており、大きな結果を生み出していない。

※画像をクリック/タップすると、ブラウザ上(の別タブ)で動画再生

以下の画像で、ロシア側損失の一部をみることができる。さまざまな車両と1両の戦車が数週間のなかで、破壊されるか、遺棄された。この道を通る進撃は成果をもたらしていないが、ここが軍事的にみて理に適った進入路であると、ロシア軍は依然として考えているようだ。

M14道路の遮断がウクライナ側の目標の一つでありうると指摘する声もある。なぜなら、それができれば、ロシア側兵站を悪化させることができるからだ。M14道路が遮断されたとしても、私はそれをロシア側の小さな障害とみなすだろう。この道路が遮断されても、ロシア軍は、少々長距離になるが別のルートを使って、部隊への補給ができる。

M14道路も含むクリンキ後方の地域を防衛する用意もロシア側にできていることを、衛星画像によって、私たちは理解することができる。500メートルの長さの塹壕さえ、ほかの防御陣地のなかに確認することができる。

ウクライナ側の取り組みは、主に軽歩兵による作戦に重点を置いている。クリンキにおいて、ウクライナ側の重装備は確認されていない。なぜなら、機械化部隊による攻勢にはドニプロ川にかかる複数の橋が必要になるからであり、橋が架けられない場合、最低の条件として、もっと広範囲なウクライナ制圧下の橋頭堡が必要になるからだ。

川を越えて機械化部隊を投入し、それらの部隊を補給することは、それができたとしても、結局のところ困難な任務になるだろう。なぜなら、ウクライナに航空・火力優勢がないからだ。ウクライナ軍の行動が活発化することが引き金となり、ロシアがこの地区への重点を、もっと決定的な形でシフトさせようと決心した場合、なおさらそうなる。

※画像をクリック/タップすると、ブラウザ上(の別タブ)で動画再生

ウクライナ側の最終目標は不明だ。現時点でウクライナ軍はロシア軍をこの地区に一定程度、拘束できており、前線後方奥にある目標に対する砲撃・ドローン攻撃に成功している。また、ロシア側損失のほうがウクライナ側よりも大きい。

2024年1月12日時点でのクリンキ戦におけるウクライナ側損失
(2024年1月5日以降の変化)
https://x.com/naalsio26/status/1746002984121626886?s=61 より
2024年1月12日時点でのクリンキ戦におけるロシア側損失
(2024年1月5日以降の変化)
https://x.com/naalsio26/status/1746002984121626886?s=61 より

だが、それと同時に、ここでの戦いは、依然としてウクライナ軍のリソースを消費し、リソースをここに縛りつけている。クリンキのような場所で消耗戦闘を続けることは厳しいものであって、ウクライナは装備を大量に失っていないとはいえ、兵員は継続的に失っていることを示す報告記事やインタビュー記事が存在する。

また、損害交換比率をみて、廃墟と化したクリンキにウクライナ軍を留めておくことが、ウクライナにとって本当に利益になるのかと問うことは、よい質問だ。とはいえ、手のかかる橋頭堡がない場合に、ウクライナが満足できるレベルの損害をロシア軍に与えることは可能なのだろうか?

※画像をクリック/タップすると、ブラウザ上(の別タブ)で動画再生

ここでの目標には、政治的な側面がある可能性もある。つまり、もっと大きな目標が実現しないようであっても、重要な方面でウクライナが攻勢作戦を続けられていることを示すという側面だ。ザポリージャにおける突破の試みがない場合、クリンキの今後の見通しは明るくない。

※画像をクリック/タップすると、ブラウザ上(の別タブ)で動画再生

この橋頭堡に対するさらに大きな取り組みが確認されていない理由の一つに、ロシア軍がここの優先度をあまり高くしていないことがあるかもしれない。現在投入している部隊によって、許容可能と思われる範囲の損失で、状況をコントロールできているため、ロシア軍は今以上に大規模な作戦は不必要だと感じているのかもしれない。

なお、この村でウクライナ軍を消耗させることを企図した特別な基本計画をロシア軍がもっていると、私は考えていない。ウクライナ軍防衛能力に対するロシア軍の連携能力や戦闘能力の水準は低く、ウクライナ軍はかなり効果的に防衛任務を行っていることが伝えられており、そのため、短期にすばやく戦いが終わることのないままで、この状況が継続している。

私たちのBlack Bird Groupはこの戦争のマッピングと分析を続けている。以下リンクから、私たちのインタラクティブ・マップをみることができる。

このスレッドで用いた画像は、だいたい2週間ほど前のものだ。このような画像を用いたのは、ウクライナ側のOPSEC[作戦保全]をいかなる場合でも危険にさらしたくないからだ。

特別なおまけ💫

ジオロケーターに感謝して、追加画像をいくつか。ジオロケーターの機能は値段がつけられないほど有用で、私は分析の一部で地理的位置特定を使っているので、何かお返しがしたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?