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【記事和訳】アウジーウカ:10月10〜20日のロシア側損失(FRONTELLIGENCE INSIGHT)

はじめに

この記事は上記リンク先の英文記事の日本語訳になります。なお、FRONTELLIGENCE INSIGHTはウクライナ軍予備役将校Tatarigami_UA氏が立ち上げた戦争情報分析プロジェクトです。また、本記事中の画像は、記事原文から転載し、使用しました。


日本語訳

入手可能な衛星画像を丁寧に目で見て評価分析する作業を行った結果、10月10日から20日の期間にロシア軍がアウジーウカ地区で被った車両損失の数を、私たちのチームは特定することに成功した。その数が109両を超えることが調査結果によって明らかになっているが、このことは、1週間半の期間にロシア軍が1個旅団規模ほどの損失を被ったことを示している。

実際に破壊された車両数は、上述の試算よりもかなり多い。私たちは、低・中確度の車両を最低でも十両ほど除外することにした。その理由は、この地域を写した画像に一貫しない点があるからだ。また、ある車両がしばらくの間、同じ地点にとどまっているのか、それとも実は破壊されているのかを、私たちが単に確定できなかったという場合もあった。

新たに破壊された車両は、画像のうえで赤色の四角囲いで示してある。一方で、9月末からすでに存在していた古い破壊は、白色の四角囲いで示した。

損失の圧倒的多数は主に装甲戦闘車両であり、具体的にはさまざまな外形をもつBMP-1及びBMP-2であったり、複数の派生型を含むT-72、T-64、T-80といった戦車だったりする。また、MT-LBやBTR等の輸送車両も含まれている。損失の合計は、109両になる。

この作戦の規模は、複数個の旅団からの部隊参加を踏まえると、軍規模[*ここでの「軍」は部隊編制単位の「軍」]で遂行されているものであることを、強く示唆している。さらに、アウジーウカ地区へのロシア軍増援派遣に関する情報を私たちは得ているが、その詳細に関しては現時点で明かすことができない。

この攻勢の際、ロシアが旧式で時代遅れの装備を用いたことを示す報告があるけれども、私たちのチームは、この攻勢に投入された新型車両及び近代化改修済み車両が相当数存在していることを特定している。今回の攻撃は、調整のとれた大隊規模による複数の攻撃という形で、さかんに行われており、ロシア軍統帥部がこの作戦を重視していることをはっきりと示している。

この作戦の初期段階の分析に取り掛かった段階で、敵軍がかなり長い期間をかけて、この作戦の計画を行っており、突発的な決定である可能性は低いという結論に達した。確認されたパターンが強く示していることは、ロシア軍がかなりの時間とリソースをこの作戦の遂行のために割り当てたということであり、作戦目的の追求のためにかなり大きな損失が生じることを、ロシア側が予期していたことが示唆される。

攻勢初動時に甚大な損失を機械化戦力が被ったにも関わらず、敵軍は、自軍が達成したわずかな成功を発展させていこうと、さらなる機械化戦力の投入を続けた。ロシア側の目標は、優位に立てる位置の確保、ウクライナ側兵站ルートの遮断、石炭屑集積地の制圧にある。

ロシア軍車両損失数の記録は重要な到達点に至っており、2022年のドネツ川渡河の際にロシアが被った車両損失の規模を優に上回っている。2022年11月から2023年4月の間のヴフレダル周辺におけるロシア側軍事行動において同軍が失った車両数を、今回の損失数がすでに上回っている、もしくはこれから上回っていく可能性はかなり大きい。

2つの別々の現地情報源によると、ロシア軍車両損失の試算は約200両になるとのことだ。そうであったとしても、私たちが続けている調査が主に地理空間上の証拠に軸足を置いていることを強調しておくのは、大変重要なことだ。したがって、私たちはこの推定数値を分析結果に含めないことにした。それはこの数値を衛星画像上で裏付ける証拠が現在、手元にないからである。

さて、ここの情勢は安定もしくは勝利から、依然としてかけ離れている。ロシア軍は、誘導式空中投下爆弾と砲撃の広範な使用をしつこく続けており、それらを補うものとしてKa-52やMi-28といったヘリコプターから発射されるLMUR(軽多目的誘導弾)を用いている。複数の指標から、ロシア軍が作戦を持続させるために、戦術を実態に沿うように適応しようと活発に動いていることが推測できる。このことは、戦線の他地区から追加のリソースをロシア軍が投入していることによって、さらに裏付けられている。

最後に、強調して伝えておきたい重要点がいくつかある。大隊もしくは大隊戦術群によって遂行されている軍規模の作戦は、この作戦の重要度を示しているのみならず、戦略的主導権をウクライナ寄りからロシア寄りへと変えていこうとする試みも示している。このような損失を今後も受け入れていけるかどうかは疑問ではあるけれども、今回のアプローチは、マリウポリ、ヴフレダル、バフムートで以前行われた戦いで、私たちが見てきたものとよく似ている。ここであげた事例において、ロシア軍はかなりの規模の人的・物質的リソースを投入し、作戦目的を達成するために、甚大な損失(西側基準では受け入れられない程度とみなされうる損失)を積極的に受け入れていた。今回の作戦は、迅速に戦果をあげて、側面からの進撃によるアウジーウカへの前進を、もともとは目指していたのだが、ウクライナ防衛部隊が示した抵抗と技能によって、ロシア軍がその計画で予想していたものよりも、かなり好ましくないものになってしまった。

私たちがとっている方法論で目指しているのは、高確度の試算を行うことだ。そうするために、私たちは4種類の異なった角度からの画像の分析を含めた厳格な分析を行った。その画像とは、攻撃前の画像、攻撃期間の画像、攻撃後の画像だ。このような包括的なアプローチをとることで、10月10日以前の喪失車両と活動中もしくは移動中の車両を除外することができた。

私たちは誤差を7%以内に収めることを目指しており、それを目指すことでかなり正確な数値を示すことができる。考えられる誤情報源には、偶然の結果による重複、対象物の誤解釈、媒体を運営している集団による誤った特定というものがあるのだろう。

私たちが利用した画像は全地域をカバーしているわけではないことに留意しておくことは重要で、相当数の損失がカウントされていない結果になっており、それらの損失は写真画像と動画資料を用いたさまざまなOSINTプロジェクトによって、位置特定がなされている。私たちの分析は、衛星画像のみに基づいており、結果として、ある地域、例えばヴォディヤネの西部地区等は、私たちの評価分析範囲から外れている。

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