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【内容紹介】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 2045 ET 13.12.2023 “ロシア当局者の発言とロシアの戦争目標”

ここ最近のロシア政府当局者によるウクライナにおけるロシアの戦争目標に関する発言から、ロシアが開戦時に示した最大限の目標を捨て去っていないことが分かると、戦争研究所(ISW)は2023年12月13日付報告で指摘しています。それどころか、「最大限」とされるもの以上の目標を示唆しているロシア高官もいます。

ロシア連邦安全保障会議副議長ドミトリー・メドヴェージェフは、ウクライナのゼレンシキー大統領と米国のバイデン大統領の12月12日共同記者会見でのバイデン発言を曲解して、ウクライナに対するこれまで以上の領土的野心をテレグラム上で表明しています。

バイデン大統領が、「勝利とはウクライナが主権を有する独立国家であることを意味し、(…)主権を有する独立国家とは、今現在、自身を守ることができるだけでなく、さらなる侵略を抑え込むことができる状態の国家ということだ」と述べたことを引き合いに出して、メドヴェージェフは、ウクライナがリヴィウ州の範囲内の領土をもつ主権国家として存続することは技術的に可能だと主張しています。

メドヴェージェフの主張は、ロシアが支配する「歴史的に」ロシアのものであるウクライナ(ウクライナ領のほとんど)とそれ以外のウクライナ(リヴィウ州)に分け、前者の「歴史的な大地の解放」をロシアの戦争目的とする主張です。メドヴェージェフは定期的かつ意図的に、常軌を逸した発言をしていますが、今回の領土拡張的発言は、12月9日のマリア・ザハロワ外務省報道官発言と同調している点が注目に値します。

ザハロワ報道官は12月9日付AFP通信インタビューのなかで、クレムリンが求めるものとして、ウクライナの政治的降伏とロシア側の軍事的条件をキーウが受諾することをあげています。また、「戦争を終わらせるために、ウクライナは『ロシア領土』から軍を退かせなければならないという曖昧な前提条件」も提示しています。なお、ザハロワ発言中の「ロシア領土」とは、ロシアが「不法に占領しているウクライナ4州(ただし、すべてがロシア占領下にあるわけではない)」のことである可能性が高いと、ISWは判断しています。

メドヴェージェフ発言ほど極端なものではないにせよ、ザハロワ発言もロシアの戦争目標が開戦当初から変わっていない、もしくはさらに大きくなっていることを示しており、メドヴェージェフ発言と方向性が一致しています。今回のメドヴェージェフ発言をいつもの大言壮語と片づけられないとISWが考える理由がここにあります。

なお、ISWの観測では、「この種の情報工作活動を全面侵攻に先立ってロシアのプロパガンダ発信者は活発化させたが、その後、現在まで著しく減少させていた」とのことです。

ウクライナ領の大半をロシア支配下に置き、残存領土をウクライナ国家とするという目標をクレムリンが復活させたことは、「ウクライナの主権に関する重要要素を無視するように国際社会を誤誘導することを目的とした組織的な取り組みである可能性が高い」とISWは分析しています。「ウクライナの主権に関する重要要素」とは、1991年に規定されたウクライナ領土の一体性であり、ウクライナ国家の自決権のことです。

2021年末から2022年初めにロシアが同様の情報工作を行ったことをISWは指摘しています。そして、その当時の目的は、「西側が外交的緊張緩和の道を探るように導く欺瞞を行う一方で、ウクライナ全面侵略の条件を整えること」にあったと分析しています。現在のロシアに関しては、実際に最大限の戦争目標を追求しているという側面のほかに、ウクライナへのさらなる支援を抑え込もうとする目的、国内軍需産業と軍それ自体を立て直すための時間稼ぎという目的をもった情報工作活動という側面もあると、ISWは説明しています。

ザハロワとメドヴェージェフの発言から読み取れることに関して、ISWは次のようにまとめています。

全面侵攻前にクレムリンが行った情報工作活動という文脈を考慮に入れると、メドヴェージェフの考えとザハロワの発言は、モスクワが不法に占拠しているウクライナ4州だけで十分満足するだろうという見解に関して、深刻な疑念を投げかけている。ましてや現在の前線の領域で十分だという見解に関しては、なおさらそれがいえる。また、米国のウクライナ支援が揺らいでいるようにみえ、ウクライナに領土面で譲歩するよう迫る西側の主張が伝えられるなか、クレムリンが露骨な領土的目的をさらに大きくする方向で見直しつつある様子なのは、注目すべきことだ。

Russian Offensive Campaign Assessment, December 13, 2023, ISW

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