本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年2月15日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナ東部:アウジーウカ方面戦況
報告書原文からの引用(英文)
日本語訳
ロシア軍はアウジーウカ市内を通過するかたちでの戦術レベルの迂回運動(turning movement)を遂行しており、その目的は、この都市内のウクライナ側拠点からの同軍の後退を迫る状況を形成することにある可能性が高い。ウクライナ軍はまだこの都市から完全に撤退しておらず、ロシア軍が現在の漸進的進撃以上の戦果をあげることを阻止し続けている。2月15日公開の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍が最近、アウジーウカ市北部に位置するアウジーウカ・コークス工場の南端に向かって前進したことが分かる。2月15日公開のほかの動画で、撮影地点特定可能なものに、ロシア軍がアウジーウカの南方に位置するウクライナ側強化防御陣地を占領した様子が示されている。この陣地は、長らくロシア軍の戦術的副次目標であった場所だ。また、ロシア軍事ブロガーの多くは、アウジーウカ南方のウクライナ軍陣地付近でロシア軍が効果的に包囲網を形成したと主張している。最近特定されたロシア軍の進撃地点から、ロシア軍がアウジーウカ市内の南北をつなぐ、同市内で最後に残された道路を遮断してしまったことが分かる。しかし、ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団のドミトロ・リホウィー報道官によると、ウクライナ軍は現在、事前準備済みのサブGLOC(地上連絡線)を使って、アウジーウカ市内南部と東部のウクライナ軍への補給を行っているとのことだ。ロシア軍事ブロガーの主張によると、ラストチキネとシェヴェルネ(ともにアウジーウカの西方に位置)からアウジーウカのウクライナ軍を補給するために使われている未舗装道路を遮断する目的で、ロシア軍はアウジーウカの西方でさらに前進したとのことだが、ISWはこのロシア軍前進の主張を裏付ける資料を今のところ確認していない。リホウィーは、ウクライナ軍がアウジーウカ地区内の何がしかの地点から同軍が撤退していることは認めたが、ウクライナ軍もまた、ロシア軍から、場所の詳細は不明だが、いくつかの地点を奪還し続けていると述べた。これまでバフムート地区に投入されていたウクライナ軍旅団の報道官は2月15日に、この旅団隷下部隊がアウジーウカに配置転換されたと述べたうえで、この部隊は現在、アウジーウカ市内のロシア軍展開地点に対して反撃を遂行中だと語った。もしウクライナ軍が撤退しない、もしくは、反撃に失敗した場合、ロシア軍はウクライナ軍の一部の包囲に成功する可能性がある。
アウジーウカ占領を目指すロシア軍の取り組みは、ロシア軍がウクライナにおいて作戦レベルでの延翼運動もしくは包囲が遂行できないことを、はっきりと示している。2023年10月に局地的な攻勢の取り組みを発動した際、ロシア軍は当初、アウジーウカでウクライナ軍を作戦レベルで包囲することを試みた。しかし、延翼運動もしくは包囲に必要な迅速な機動の遂行に失敗したのち、ロシア軍はこの都市を通過するかたちの迂回運動による戦闘に、少しずつシフトしていった。[中略]ロシア軍の作戦レベルにおける延翼運動もしくは包囲の失敗は繰り返されており、そのことは、ロシア軍が今後も、大規模な機動戦による進撃ができずに、小規模かつ漸進的な戦術規模の前進を続けていくことになる可能性の高さを示唆している。なお、ロシア軍が大規模な機動戦を実施できたならば、今以上に迅速な進撃、またはウクライナ軍の大集団の壊滅という結果を導くことができる可能性がある。
ロシア軍がアウジーウカを占領する可能性はあるが、そうなったとしても、その事態が作戦的に大きな意味をもつことにはならないだろうし、クレムリンに情報面と政治面での当座の勝利を与えるだけに終わる可能性が高い。[以下、略]
参考ウェブサイト
戦争研究所:ウクライナ戦況インタラクティブ地図 ⬇️