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【ウクライナ戦況記事和訳】アウジーウカのジレンマ:戦術的現実と作戦上の必要性を分析する(Frontelligence Insignt, 2024.02.16公開)

上記リンクの英文記事は、ウクライナを拠点とする戦争・紛争分析チーム「Frontelligence Insight」によるウクライナ東部アウジーウカ方面の戦況分析記事です。

以下は、この英文記事の日本語訳になります。なお、翻訳記事中の画像は、原文のものを転載して使用しています。


日本語訳「アウジーウカのジレンマ:戦術的現実と作戦上の必要性を分析する 2024.02.14時点の最新情勢」

2024年2月7日に私たちが示したアウジーウカ陥落が避けられない模様であることを伝える報告は、この種の報告の先駆けの一つだった。それ以降、情勢はさらに悪化しつつあり、ロシア軍はますます前進している。その対応として、ウクライナは精鋭部隊である第3独立強襲旅団を、状況をこれ以上悪くしないようにするため、この地区に投入した。だが、アウジーウカの緊迫した情勢は未だに続いており、一部の部隊は、包囲されるもしくは極めて重要な兵站ルートを遮断されるという差し迫った脅威に直面している。衛星画像・現地情報・OSINT情報を利用して、私たちは読者に激しく進展する戦場に関する見解を示したいと考えている。

アウジーウカに関して注視すべき重要ポイント(2024年2月14日)

ウクライナ領ドネツィク州アウジーウカ
2024.02.14
©️Frontelligence Insight


ロシア軍は兵数と車両数の両面でかなりの優位を保持している。攻撃初期の間、ロシア軍は十分に防御されたウクライナ軍陣地に向かって、多くの場合、地雷が埋設された開豁地を前進した。その際に防御を与えてくれるのは樹木線のみという状況であった。その結果、ロシア軍はアウジーウカ守備隊と比べて、比較にならないほど多くの車両と兵を失った。この損失率の高さは初期時にみられた複数のミスと非現実的な予想の結果であった。例えば、第15独立親衛自動車化旅団の1個小隊は、攻撃開始初日にウクライナ側防衛網内に3キロメートル進入する任務を与えられていた。だが現実には、この旅団はおよそ40両のBTR(装甲兵員輸送車)を、10月10日から19日の期間に失った。かなり大きな兵力損耗が生じたのち、第15、第21、第114のようなロシア軍旅団は一斉に追加兵力を投入しないことに決めた。これらの部隊は、各旅団がもつ予備大隊を投入しないことに決め、機械化戦力を用いて迅速にアウジーウカを包囲するという考えを放棄した。


ロシア軍側の状況は、一旦、都市内に進入すると改善していった。1月21日頃、ロシア軍はアウジーウカの住宅地域内に浸透し始めた。地下の通信連絡網を利用して、ロシア軍は、奇襲要素も加えることで、アウジーウカのウクライナ軍将兵が押さえていた後方拠点の一部の制圧に成功した。この柔軟なアプローチによって、守備側は後退を迫られ、最終的にロシア軍はアウジーウカ市内に足場となる拠点を築くことができた。敵軍が市街地に進入してしまうと、死傷者の彼我比率は同比率に近づく傾向を示すようになり、特にロシア軍が砲兵・航空支援を得た場合、ロシア軍は通りを一本ずつ攻略して進むことができ、それとあわせて補給路を切断している。

ウクライナ領ドネツィク州アウジーウカ
2024.02.14
©️Frontelligence Insight


当初、ロシア軍の攻撃は機械化部隊と歩兵部隊の攻撃による両翼からの包囲を目指していたが、大失敗に直面した。この理由は、主にウクライナ将兵の陣地防衛の決意を過小評価したことにあり、また、北翼方面のロシア軍の戦力を過大評価したことにもある。10月から11月にかけて南北両翼エリアで継続的に圧力を加えたにも関わらず、包囲を完遂することはできず、その結果、ロシア軍はアウジーウカ市内に重点をシフトするようになった。局地的な航空優勢を得た結果、ロシア軍は誘導式投下爆弾を用いた空爆を複数、遂行できるようになった。対砲兵戦用の砲弾の欠乏は、ロシア軍の大規模な砲兵配置を許す結果になり、それら砲兵がウクライナ軍防衛網を弱体化させた。弱点が突きとめられると、複数の部隊グループが、包囲を完了するため、いくつかの方向に集結して動いた。


ロシア軍部隊は誰がどうみても甚大な死傷者を出した。そのことは第25諸兵科連合軍が第2・第41諸兵科連合軍に、攻撃を持続させる目的で装備を渡したことからも明らかだ。だが、一般に流布されている話とは反対に、ロシア軍は絶え間なく正面攻撃を繰り広げていたわけではなかった。敵軍はより創造的かつ柔軟になるように適応していった。強力な機械化部隊による攻撃で陣地を圧倒することの限界を認識したロシア軍は、ウクライナ軍を小さなポケットに分割することを始め、ウクライナ軍を相互連携が取れない地区に分けてしまった。私たちが数カ月前に予想したように、敵軍が制圧に苦戦することになった地区であるステポヴェに対して、直接的に押し進む代わりに、ロシア軍はアウジーウカから北東の地点に弱点をみつけた。この場所で、ロシア軍は鉄道線とそれを越えた地点に向かって、支配領域を拡張しようと推し進んだ。

ウクライナ領ドネツィク州アウジーウカ
2024.02.14
©️Frontelligence Insight


KAB(航空機投下型誘導爆弾)が投下される攻撃目標エリアは広がりつつある。ロシア軍航空爆弾はアウジーウカだけに限定して使われているだけでなく、後方地域の村落周辺にも広がっている。その村落には、オチェレティネ、ノヴォセリウカ・ペルシャ、ノヴォバフムティウカが含まれる。


何とか捕虜を捕らえることに成功したさまざまな部隊から寄せられた報告の一部から、新兵が12月と1月に入隊したことが分かる。私たちが入手した情報が明らかにしたことは、10人程度の受刑者のグループが1月中旬に入隊したとのことだ。このような兵士は経験不足かもしれないが、新兵が流入することによって、消耗したウクライナ軍部隊に対して、確実にノンストップの圧力を加えることができ、それによって、ウクライナ軍のリソースは搾り取られ、そして撤退せざるを得なくなる。


さまざまな試算によると、今週は1日あたり37〜42発のKAB爆弾がアウジーウカに投下された。この数字は不正確ではあるが、この破壊力の大きな爆弾は、その積載炸薬量によって広域な被害を引き起こし、近隣の建造物への被害、もしくはそれら建造物の破壊という結果をもたらしている。2月14日に撮られた画像によって、かなり多数の建物が相当甚大な被害を被っていることが明白になっている。

ウクライナ領ドネツィク州アウジーウカ
2024.02.14
©️Frontelligence Insight


ロシア軍がアウジーウカ市内に複数のポケットを形成することが近づきつつあるなか、残された選択肢は限られたものだ。それは、包囲されようとしている地点から撤退するか、反撃を行って包囲を撃ち破ろうと試みるか、という選択である。だが、このような状況下で反撃を成功させるように調整するのは極めて困難で、親衛戦車師団を含むロシア軍戦力の集結を考えると、反撃するには、ウクライナ軍は正面からの、もしくは側面からの反撃のために狭い帯状地帯に戦力を集結させる必要が生じる。それも砲兵支援や航空支援の優位性がない状態で行わなければならない。

これからどうなる?

現時点で今後の展開として最も論理的なものは、アウジーウカからの撤退、もしくは脱出というものになる可能性が高い。この展開は政治的観点からみると好ましくないものに受け取られるかもしれないが、アウジーウカ防衛の最初の数カ月は、ロシア軍に大きな損害を与え、ロシア軍がそもそもの計画のようにウクライナ領内に奥深く進撃することを阻止することができた。ロシア軍は突破したうえで迅速にアウジーウカを包囲することに失敗し、ウクライナ側後方とドネツィク州各所に展開するほかの部隊に補給物資を送る兵站ルートを打撃するための作戦空間に入る足がかりを掴むことに失敗した。成功できなかった結果、2024年2月9日時点で、655両を超える数の車両が、さまざまな程度の損害を被るか、破壊された。なお、この数はOSINT分析者のNaalsioによって報告されたもので、Naalsioは位置特定され、動画で裏付けられた損失を極めて注意深く記録している。10月10日から11月28日にかけて、アウジーウカ周辺でロシア軍損害車両または遺棄車両が211両を超えていることを、私たちのチームは特定して報告している。

このことは、ウクライナにアウジーウカ後方地域の要塞化と強化を行う機会を与えた。ただし、強化防御陣地の構築はまだ不完全なものだ。アウジーウカは、ウクライナがドネツィク市へ向かう最後の門だ。つまり、ドネツィク市解放を目指す攻勢作戦の足場になりうる地点ということだ。これは理論的には見込みがあるが、このような期待は、目下の戦況を踏まえると、ますます非現実的になっている。

極端に流動的な状況のなか、この戦いの流れは、ウクライナの撤退とゼニトのような重要拠点の近々の陥落が不可避であることを示唆している。予期せぬ出来事の発生の除いて、ここでの出来事は、まもなく終わりを迎えることになる可能性が高い。

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