Russian Offensive Campaign Assessment, June 2, 2024, ISW ⬇️
ウクライナ軍が抱える兵士訓練の問題
戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
訓練に関する困難さが動員によって悪化するなか、複数のウクライナ軍野戦指揮官が、前線で新兵の訓練を行うことによって、この訓練面での困難さに対応していることが報じられている。複数のウクライナ軍野戦指揮官がワシントン・ポスト紙に語った話によると、彼らは、新しく配置転換されて前線に来た兵士たちに基本的なスキルを教えることに、相当な時間を割いているとのことだ。そうする理由は、送られてくる兵士が訓練センターで基本的なスキルを学んでいないことにあるという。6月2日のワシントン・ポスト紙報道は、後方で任務に就いていたウクライナ軍兵士に関して、その多くが2022年の全面侵略開始以前から軍務に就いていたにもかかわらず、前線に送られた時点で十分なスキルがないことを伝えている。ワシントン・ポスト紙が指摘した問題は、現在の状況下において驚くべきことではない。前線のウクライナ軍の大半が2年を超える期間、戦い続けており、消耗してしまっている。それゆえ、ウクライナは現在、これらの前線戦力をすみやかに新鮮な戦力と交代させねばならないという圧力に、また、防衛力を維持するために損失を埋め合わせなければならないという圧力にさらされている。そして、新兵の訓練を行うために前線から経験豊富な兵士を引き抜くのか、新兵訓練におけるボトルネックを甘受するのかという選ぶのが難しいトレードオフ関係が存在する。あるウクライナ軍将校がワシントン・ポスト紙に対して、ウクライナ軍は新兵訓練のためにNATO軍教官を必要としており、また、訓練期間を1カ月に半減させる必要があると語ったことが報じられている。ロシア軍による後方地域への攻撃は、ウクライナ領内最西端地区にまで及んでおり、ウクライナには、安全な環境で兵員訓練を行える安全な後方地域というものは事実上ないことが明らかになっている。そして、現在も続いている英国主導の「オペレーション・インターフレックス」訓練プログラムのように、NATO加盟国で訓練を行うために兵士を送ることは、ウクライナ軍野戦指揮官から兵員訓練任務を取り除くことになる一方で、訓練を受ける兵士をNATO加盟国に送り、その後、ウクライナに戻す必要が生じることから、兵士が前線に投入されるまでの期間の遅れは増すことになる。ウクライナがこの問題を迅速に解決できる見込みは乏しく、前線に展開するウクライナ軍戦力の全般的な質は、たとえ投入可能な兵力数が増加しても、経験豊富な兵力がローテンションで前線から退き、新しい兵力が前線に投入されるなか、低下していくことになるだろう。そうであるとはいえ、新兵が、経験豊富な将兵とともに戦うことで、すばやく学んでいく可能性は高い。
新たに送り込まれてきた兵士を、戦闘に投入する前に、前線で訓練するというウクライナ軍野戦指揮官の意思決定から、短・中期的にはウクライナ軍の全体的な質がロシア軍のそれよりも高く保たれることになる可能性が高いことが示唆される。ロシア軍は適切な訓練を施すことなく、新たに投入された動員兵・受刑者兵士・新規契約兵士・志願兵を使って、大規模な歩兵主体の「肉弾突撃」を実施し、ウクライナ領内でわずかな戦果をあげてきた。そして、ロシア軍は、このような戦果のために莫大な犠牲を出し続けることを厭わずにいる。とはいえ、ロシア軍の戦力造成制度は、ウクライナで生じる死傷者をおおむね埋め合わせることができており、有効な訓練を行うことよりも、さらなる「肉弾突撃」のために新兵をすばやく前線に送ることを促進している。2022年9月の部分動員以降、ロシア軍事ブロガーは機能しないロシア軍の訓練について、継続的に不平不満を表明している。また、ロシア軍シュトルムZ部隊の元訓練官が最近主張した意見によると、訓練要員の人数が適当でないことから生じた訓練面でのボトルネックの結果、ロシア軍「戦略」予備は「何カ月間も何もしていない」状態であるとのことだ。NATOの訓練要員とウクライナ側の協力関係がさらに進めば、特にNATO軍訓練要員がウクライナ領内の後方地域で訓練支援を行うことになれば、ウクライナが基礎訓練制度を改善し、新たに前線投入される兵士の質を向上させる機会は、よりいっそう増すことになる。
報告書原文の日本語訳箇所(英文)