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【記事和訳】地理情報分析:ロシア占領下ウクライナ領でのロシアによる鉄道建設(FRONTELLIGENCE INSIGHT 09.01.2024)

上にリンクしたSubstack記事は、ウクライナ軍予備役将校が設立した戦争・紛争分析プロジェクト“FRONTELLIGENCE INSIGHT”によるロシア・ウクライナ戦争に関する情勢分析記事です。

このnote記事は、そのFRONTELLIGENCE INSIGHT記事の日本語訳になります。なお、本記事中で使用した画像は、原文記事からの転載になります。


【日本語訳】地理情報分析:ロシア占領下ウクライナ領でのロシアによる鉄道建設

[更新版:パイプラインとマリウポリ鉄道に関する情報修正が含まれている]

効率のよい兵站はあらゆる戦争にとって極めて重要なことで、2022年の侵略初期時においても重要な要素になった。兵站上の課題が、ロシア軍の当初目標達成を妨げ、キーウ付近、スームィ付近、チェルニヒウ付近に展開するロシア軍将兵への補給を妨げた。成功に終わった2022年ヘルソン反転攻勢の際も、また、その後の2023年夏季反転攻勢の際も、兵站は引き続き中心的なものであって、2023年夏季反転攻勢においてウクライナ軍は、マリウポリ地区に向かって前進することで、クリミアへとつながる地上連絡を断つことを意図していた。

2023年の初め頃、ウクライナ軍をヴフレダルとさらに広域なヴォルノヴァハ地域から追い払うことに、ロシア軍はかなりの労力を投入した。その目的は、ドネツィク〜マリウポリ間の鉄道の安全確保にあった。だが、この取り組みは壊滅的な結果に終わった。部隊、弾薬、装備を運ぶために、鉄道輸送というものが両軍にとって依然として最も有力な手段であるという認識があるから、上述の事態は起こっている。

Frontelligence Insightチームは、鉄道建設の衛星画像を分析した結果、何らかの妨害が生じない限り、2024年にロシア軍が占領下のウクライナ領での鉄道兵站を改善させるだろうと確信している。ウクライナ南部を通るタガンログ〜クリミア間をつなぐ鉄道を建設する動きの進展がみられる。

ブルネ〜マロヴォドネ支線

ロシア〜ドネツィク〜マリウポリ間の兵站を強化するために、ロシア軍はドネツィク州南部で新たな鉄道支線の建設を熱心に進めている。

新鉄道支線の建設
ウクライナ領ドネツィク州ブルネ
2023-10-04 | 47.693046, 38.223603

この支線の目的は、マリインカ付近とヴフレダル付近の前線の危険な箇所を迂回することにあり、完成すれば、ドネツィク州後方地域からマリウポリとその先へと向かうリソース輸送を安全に行える一助になる。

この新支線はブルネという村から出発し、マロヴォドネで既存線と連結する。

ウクライナ領ドネツィク州ブルネ
2023-10-04 | 47.697116, 38.226365

衛星画像によって、この鉄道支線の建設がかなり進捗していることが明らかになっており、私たちのチームは2024年内に完成する可能性があると確信するに至った。だが、比較分析の結果、カルミウス川に架かる橋の建設に起因する遅延が目立つ。

※動画:原文記事参照(画像クリック/タップ)

この分析記事の執筆の間、まだ橋の建設中であるにも関わらず、ウクライナ軍がこの橋を攻撃目標にしていたことを示す報告が、マリウポリ市長補佐官からもたらされた。この情報が正確だと仮定した場合、この鉄道支線の開通はさらに遅れることになるだろう。このたった一つの障害点が、ウクライナ側兵器に対して脆弱であるということが、完成後においてさえ、今後の攻撃の見込みを増す結果になっており、鉄道支線全体の機能に影響を及ぼしている。

ウクライナ領ドネツィク州マロヴォドネ
2024-01-01 | 47.3743993, 37.6858408

タガンログ〜クリミア陸橋

さらに大規模で野心的なプロジェクトがロシア軍によって発表されており、それはクリミアとロシア本土を陸の回廊で接続させる目的のプロジェクトだ。これはクリミア橋の代替ルートとして役立ち、輸送期間の短縮を目的としている。これは[以下の]ロシア当局者が発表した図表に示されている通りだ。Frontelligence Insightチームは、この鉄道線の建設初期段階が示唆しているように思われるものの意味の特定を進めてきた。

先に述べたブルネ〜マロヴォドネ間の鉄道とは異なり、この鉄道はさらに長く、まだごく初期の建設段階にある。それらを総合して、2024年末までにロシアはこのプロジェクトを完了することができないと私たちはみている。

ロシア軍が天然ガス汲み上げ基地の復旧にも成功したことを衛星画像は示しており、マリウポリと広域なロシア国内内部地域を対象とするガス・パイプラインの導入を積極的に進めている。インフラへのこの多額の資金投下が示唆しているのは、この地域を確固たる軍事力が展開する要塞化された前線拠点に変容させていく意図が、ロシア軍にあるということだ。

ウクライナ領ドネツィク州マリウポリ
2023-12-28 | 47.1271863, 37.7195835

このパイプラインは、マリウポリ・タガンログ天然ガス・システムの一構成要素である可能性が高い。

ウクライナ領ドネツィク州マリウポリ
2022-07-28 | 2023-12-28
47.1832568, 37.5873735

タガンログ〜マリウポリ間の鉄道建設プロジェクトが初期段階にあることを考えると、ロシア軍がこれをすぐに完成させる可能性はかなり低い。ブルネ〜モロヴォドネ間の鉄道区間は、2023年中頃に着工しているが、まだ完成の半分にも至っていない。注目すべき点として、この区間は、ロシア軍がメリトポリ〜タガンログ間に建設しようとしている区間よりも、ほぼ10倍近く短いということがある。

この鉄道線の建設が順調に完了したら、輸送時間は短縮することになり、また、ロシア本土の部隊とウクライナ南部のロシア占領地をつなぐ新たな別ルートができることになる。代替ルートの出現によって、クリミア橋の迂回が可能になり、その結果、橋の破壊もしくは橋への被害に関連するリスクの緩和につながる。

まとめ

鉄道橋を効果的に狙って攻撃するために、橋梁破壊用に設計されたもっと強力なミサイルが、ウクライナに必要になるだろう。一例としてドイツのタウルス・ミサイルがそれにあたる。全体的にみて、ロシアは占領地域における軍事インフラの向上と拡張を進めていくと考えれ、そうすることで、自軍の存在を確固たるものにし、ウクライナ軍による占領地域解放の難易度を高めることになる。2024年に弾薬不足、定員に満たない部隊、西側からの少ない支援のような様々な困難にウクライナが直面していくなかで、守勢的なアプローチが採用される可能性は高い。その結果として予想されることは、ロシア軍が、軍事インフラの拡張・防御強化の取り組みを集中的に取り組んでいくということだ。

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