お菓子を食べる、おやつを探す⑤

なんの因縁か、実家もその後の家も高速道路の近くだった。辛いときも嬉しいときも、高速道路を横目で見ながら帰宅したものだ。跨道橋から上りと下りの車をぼんやり見て、もう帰省の時期かとハッとしたり、早朝に走るトラックのドライバーに思いを馳せたりと、振り返れば日常に彩りを加えてくれたような気がしないでもない。家族で昼ごはんをサービスエリアへ食べに出かけたこともあった。だから、つい久しぶりに今日は様子を見に来てしまったのだ。まずは歩道橋から高速道路の側面と下側をじっくりと眺める。お馴染みのカーブやソリッドな継ぎ目に、不思議と安心感を覚える。次に下道へ降りて、合流していく車たちを眺める。車の機種や車内の雰囲気をもとに、運転手の物語を頭の中で捏造する。これが意外とかなり楽しい。あり得るかもしれない誰かの物語をつくることは、最も人生のおやつに適している、とさえ思う。あまり目を離さないようにしながら、缶コーヒーをちびちびと口に運ぶ。高速道路といえばコレ、父親がよく買う眠気覚ましのコーヒーだ。しょぼいサービスエリアにはスターバックスはなく、自販機しか置かれていない。薄くて甘い独特の味は自分も車の中にいるような、思い出の中にいるような、不思議な気分にさせてくる。わたしはあまり運転が得意ではなく、もっぱら助手席が専門だ。昔も今もそれは変わりない。運転はよく人生に例えられるけど、ならばわたしはずっと誰かの隣でいいのだろうか。胸の奥がきゅうとなって足元をみると、犬がへばりついていた。向かい側から来た散歩中の人たちに気が付かなかったらしい。考え事にふけるのもまたおやつ。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?