今日の1ページ20230327

「モテたいなあって思うこと、あるでしょ。別に男に飢えてなくてもさ、ほら、ちやほやされたいみたいな。」
「うーん、なんかね、わたしのことを好きになってくれる人がいてくれたらいいなとは思うよ。ほんとにわたしのことを好きでいてくれる人。いつもさ、キャラが好きとか顔が好きとか、そういってくれる人はいるけど、それで急に付き合ってって言われても私の何を知ってるのって、ちょっと引いちゃうのよね。」
「そっか、それは難しいですね。ちやほやされたいって気持ちとは違うな。」
香織さんは右手の薬指についているシルバーのすこし大きなリングを上下させている。
「ねえ、こういう話って普通だいぶ酔ってからするもんなんだけど。」
「そうですよね、ほんと、バイトクローズで働いて疲れたあとの電車の中でする話じゃないですね」僕がそういうと、香織さんはふふっと笑って僕の眼をゆっくりと覗き込んだ。
「はやく企画してよ、待ってるから。」
「そうですね、吞んだら楽しそうだな」
「じゃあ、またね」
「じゃあまた。おつかれさまです。」
僕はもっと話していたような微熱感を車内に残して、さっと駅に降りた。

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