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「私のことなんて誰も必要としていない」の治し方

朝起きて、もう全然だめなときがある。

生理前か排卵期? カレンダーを見るけれど、そんなタイミングではないっぽい。じゃあ、あれかな? 昨日読んだ素晴らしいエッセイと自分のダメさを比較して絶望してる? それとも、だいぶ前に浴びた、あの人の心ない一言が今頃効いてきた?

わかんない。なんだっていい。とにかくもう全然ダメ、って日がたまにある。

あの人もこの人も家族も友達も、私の話なんか聞いていないようにも思えてくる。適当に話を合わせてくれているけど、他のことを考えているし、なんなら早く終わらないかなって顔している。私がそのことに気づいてないとでも思ってるんだろうか? わかってるからね。もう要らないんでしょ! 私なんか。

私は誰からも必要とされていない。居ても居なくても同じだ。解決できるわけでもないのに、いつだってくだらない文句ばかりうだうだネチネチとあちこちに吐くだけの煩わしい人間だしね。ふん。私にできることなんて、子どもたちのご飯を作って掃除洗濯をすることくらいだ。

……と思っていたけれど、子どもたちも最近は帰ってきたら玄関に荷物をほっぽり出して遊びに行ってしまうし、土日だっていない。ご飯だって勝手に買ったり作ったりして食べている。もう家事育児のシーンでも私はそんなに必要な人間ではない。

仕事なんてもっと私じゃなくてもいいことばっかり。パートさんや現場スタッフがいればまわる。私なんてそこにいるとみんなに気を使わせて、かえって邪魔なだけだ。有益なものを何も生産していないくせに酸素を消費し、二酸化炭素を垂れ流し、迷惑をかけている肉の塊。本当にいよいよ、私なんて居なくていい。

できることならサクッと痛みなく死にたいけれど、それも色々と各方面にご迷惑でしょうから、文字通りスッと消えたい。みなさまの記憶のデータ容量に申し訳ないので記憶からも削除してさしあげたい。

「消えたい」とか言いながら、SNSで「絶望……」と呟いては「慰めてほしい」アピールをしてクソみたいな承認欲求を満たし、近しい人たちには「私なんかいらないんでしょ! もういい!」とLINEを送り、しばらくして嫌われるのが怖くなって送信取消をする。今まで何百回「もういい!」と言って消してきたことか。全然消える気ゼロでキモすぎる。

仕事をしていたって家事をしていたって手が止まる。思考がドロドロと腐って頭が鉛のように重くなり、ふにゃふにゃな背骨に力が入らず、体をうまく支えられなくなる。

こうなると私はもう何も手につかないのだ。知っている。これまで何十回もやってきた。もううんざりだ。

できることといえば、ひたすらこの気持ちが去るのを待つだけ。SNSから離れ、投げ出せる仕事は投げ出し、布団にくるまって社会と自分を断絶する。

どこか遠くへ連れていってくれる本を探すんだ。エッセイではだめ。どうしたって自分のダメな文章と比較して余計に落ち込んで、二度と書けなくなる。

小説がいい。日本の小説だと、設定や舞台などが自分に近いこともあるので、できれば海外の作品で、魔法やSFのような現実からかけ離れたものだとすごくいい。

本の世界に逃げていると、現実を忘れられる。そして、自分がいかにちっぽけで傲慢で無知であるかを思い知ることができるのだ。

私なんて居なくても世界は回るに決まっている。有名な俳優が亡くなったって、どこかの国の首相が亡くなったって、誰が居なくなったって、世界はまわってるんだ。それなら、ここに居たって、一緒だ。居たって、誰も気にしないし、世界は1ミリも動じない。

必要とされてなくたって当然だろ。傲慢にもほどがある。

そんなことで消えるなんてもったいない。だって私は昨日まで、こんなに面白い本がこの世にあることを知らずに生きていた。これからだって、きっともっともっと面白いことを知れるはず。

どうせ消えるなんてことはできないし、居なくても、”居ても” 一緒なら、開き直って、美味しいもん食べて、面白いもん読んで、もっと知見を蓄えて、人を笑わせて、褒めてもらって、楽しく生きようっと。

あー、お腹すいた。あー、Twitter見たい。

ここまで来るのに、早ければ1日、ひどいと何週間もかかるときもあるけれど、お腹がすいて、Twitterを見たくなってきたら、もう大丈夫。

リハビリにはマックが最適。妊娠中、つわりの時期でも食べられたマックのポテトを食べると、その世俗的な商品イメージとジャンクな味から「ああ、これこれ。俗世間の入り口!」と、一気に社会と繋がることができる。

ポテトを食べながら「なんだよ。同じ金額払ってんだから、一律で揚げたて食べらんなきゃ揚げたてじゃない人が損じゃないか! なんなら100%揚げたて保証したものに50円追加料金払うシステムにしてもいい!」なんて小賢しいツイートをし始めたら、それはもう復活のサイン。

さーて、ポテトも食べて、ツイートもしたし、そろそろ仕事しよ。


おしまい


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