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#9 額装師の祈り 奥野夏樹のデザインノート|谷 瑞恵

額に入れたら、そこで収められたものの時間が止まる
絵だけではなく、宿り木や、小鳥の声、毛糸玉
額にしてほしいという登場人物の想いは様々で、それぞれが深く重たい過去を抱えている
額の中に想いを込めるということは、依頼人の心に深く入り込んでいくということ
時には心がえぐりだされるような苦しい思いをすることも
それでもそこに収めたいものがあるという想いがあるということ
自分がこれまで苦しみながら抱えてきたものの時間を止める
そこから先は自由になることができるのなら、誰かに委ねてもいいかもしれない

夏樹と純は、ふたりとも、立ち直れないくらい傷つけられたかった
でも、お互いを傷つけることはできなかった
傷つけあうことができないなら、慰めあうことはできるのだろうか
傷つけあわずにもっと近づくことができるのかな

誰かを傷つけたくない、とか、自分が傷つきたくない、という気持ちはわかるし、みんなが口にする言葉であり、同じ思いで、理想であるけど
でも、たぶん、痛みを伴いながら誰かをあえて傷つけたいとか、自分が立ち直れないくれい傷つけられたいというのは、言葉としては少し驚きがあったけど、でもそういう感覚を理解できないわけではなくて
むしろ、あぁ、自分てそう感じていたのかもしれない
と自分の感情が言葉の枠にしっかりとあてはまった感覚があった

傷つけたぶん傷つくし、傷つけられたぶん傷つける
誰も傷つけたくない、という気持ちは傲慢なのかもしれない
みんな、傷つけあいながら、傷をもちながら、どうやって生きていけるのだろう
そうやって痛みを持ちながらも、夏樹と純のように支えあえたら幸せだなぁ

小川洋子さんの薬指の標本の雰囲気に似ている感じで、とてもあたたかい気持ちになる作品

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