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#35 線は、僕を描く|砥上 裕將

読みはじめは、青春小説かな・・と思って、あまり読み進められなかった(ちょっとニガテ)
ただ、途中から、水墨画を通して過去から立ち直って成長していく様子より、言葉を使って人に気持ちを伝えることの難しさに苦しむ青山に共感を覚えた
私も20代後半には、言葉ですべての出来事を伝えて、そして人に答えを求めるということをずっとやってきた
でも自分の思いが完璧に伝わっていないことに気づいて、自分の言葉の足りなさに嫌気がさしたことがある
でもそれは自分が言葉を操れないだけで、言葉が自分の気持ちを正しく伝えるのに適していないだけではなかったか
そう思った時、人に自分の気持ちを話すということをあきらめたような気がする
言葉が発せられるたびに、離れていく感情、違和感
本当はそうではないという思い
誰かと一緒にいたときに感じる幸せな気持ちはどうやって伝えられるのだろう
伝える必要があるか、ということもあるが、私は、一緒にいる相手にはその思いを伝えたい
でもどうやって・・
たぶん一生、言葉が十分に感情を正しく説明できることはないだろう
両親を失ってから、自分の心を話さなくなった青山が、水墨画と出会って、千瑛たちと出会って、少しずつ動いていく心、感情を、言葉を使って伝えるのにもがく苦しさが伝わってくるようだった
水墨画が、その手段となってくれた翠山先生との出会いの場面は、この物語の中で、とても大きな部分であったと思う
先生が言葉を発しないこと、その深く、静かな雰囲気から、同じ境遇を経験してきたことを青山は苦しいほどに感じた
自分の声から、自分が自分の気持ちがまだそこに潜んでいることに気づく
苦しく響く
だから、言葉を必要以上に発しない
自分の中で、哀しみを抱えて生きていく
この哀しみは誰にもわからない
それでいい
野村克也さんもが生前、妻の沙知代さんを亡くしてしばらくたった時、「この寂しさから抜け出せることは絶対ない」とつぶやいた
シンプルな言葉だったけど、本当に心を突く、哀しい想いを感じたのを思い出した

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