ツイッタランドの落日

昔々、あるところにツイッタランドという国がありました。
その国は税金がかからず、自由に放言できたため、たくさんの人が住み始め百家争鳴呟きました。
これまで存在した国がおしなべてそうであったように、ありとあらゆる人がおりました。
病の苦しみ、育児、介護のなやみを打ち明ける人もおれば、心温まる励ましをする人もおりました。
一方で中世のように、つるし上げをし、容赦なく罵詈雑言の礫を投げつける人もおりました。
絵や写真、工作、手芸などで一躍注目を集める人もおりました。
おかしみのある日々のこもごもを人と共有して、喜びを得る人もおりました。
虚言も妄言も、デマもアジテーションもありました。
正論も深い智慧も止揚する論議も等しく流れていきました。
奇跡のような人助けも起こる一方、放火や悪質な犯罪が度を越していきました。

ツイッタランドは税金のない自由の国でしたが、統治者はおりました。
ツイッタランドの住人が増えるに従い、統治者はインフラを拡充しなければなりませんでした。
また、誹謗中傷の過ぎる人や犯罪を犯す者について、強制退去の措置をしなければならず、監視や規制ためにもお金が必要になりました。
また、ツイッタランドには運営を行う統治者のほかに、株主という存在がおり、株主を満足させるためにツイッタランドを栄えさせなければならず、そのために色々な機能を加えたりしましたが、なかなか思うようにいきませんでした。

そんなある日のこと、ツイッタランドの住人で株主でもある一人の男が、統治者を追放して王として君臨することになりました。
彼は、ツイッタランドを愛しており、規制が増えることについて我慢がならなかったのです。
彼は社屋に乗り込み、ツイッタランドを、彼の愛した国に戻すべく、奮闘を始めました。
追放された有名人を戻そうとしたり、運営方針について住民投票を始めたりしました。
ただ、株主は依然として存在しており、ツイッタランドを再興すると同時に株主を満足させなければなりません。
これまで有名人には成りすまし防止のために与えていた勲章を、おカネで買えるようにすることもやってみました。
残念ながらこれらの施策は、ことごとく裏目に出たと言えるでしょう。
住民は思うように増えず、広告収入も伸びずです。
けれども、ツイッタランドの住民の多くは、王様の施策を面白半分に風刺して楽しんでいました。

そう、あるときまでは。
なんと、王様は、ツイッタランドに行動制限をかけたのです。
納税していない住民は、一日に600回しか他人の呟きを見れないという制限を。

これには、呑気に構えていたツイッタランドの住民たちも驚きました。
いままで無制限に使えていたギガ数が、いきなり6メガに制限されたようなものですから。
一日中のべつ幕無しに人々の呟きに耳を傾けていた住民にとっては、青天の霹靂でありました。

ぽつぽつと、移住の話が聞こえるようになりました。
どこの国が住みやすくて面白いか、生活費や税金がかからないほうがいいに決まっています。
お試し居住をしてきた人々は、「なかなか思うような国はないさ」と肩をすくめます。
それでも、threadという国が良いらしいと噂が立ち始め、転居を視野にビザを取得する人が目立ちはじめています。
これは、そんな落日のツイッタランドの一風景です。

「行くのかい?」
荷車に荷物を積み上げた友人に、男は声をかけた。友人の面差しは落日を背に暗く沈んでいた。
「ああ、」
彼はthreadの新居の連絡先を貼り付けた玄関を、名残惜しそうに撫でた。彼にはそこそこの資産(フォロワー)がいたが、新天地に連れていくことはできない。
「また、いちからやりなおしさ」
本当は、出ていきたくなどない。その思いが項垂れた姿勢から滲みでていた。
「おまえならすぐひと財産作れるよ」
本気半分の気休めで励ますと、友人は力無い笑みを返した。
「まあ、まだ家は残していくから。たまには戻ってくるさ」
斜陽が、世界を朱に染め上げている。
早々と移転する彼らが賢いのか、漆黒の宵闇が訪れるまで自分は動かないのか。自分の腰の重さを他人事のように冷笑しつつ、男は夕日に消えていく友人を見送った。

さてそのころ、王様は執務室で何をしているのでしょうか。
どうすればツイッタランドが、彼の愛した楽しい世界が取り戻せるのか、頭を掻きむしりながら悩んでいるのでしょうか。
とある一つのメタバース、ツイッタランドのお話です。

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