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千積読記2023年2月第3週(2/12-2/18)

先だって目標を立てた、毎週の読書記録の1週目。

『ダンピアのおいしい冒険1』(トマトスープ/イーストプレス)

私掠船に乗った海賊、はたまた冒険家、初めてオーストラリアやニュージーランドを探検したイングランド人、世界を3周した最初の人類、新世界を舞台とした博物学者の先駆けにしてベストセラー作家。

ウィリアム・ダンピアを表現する切り口は数あれど、そんなものは取り上げる側に都合のいい肩書を選んで呼んでいるだけにすぎない。この漫画を読んでいると、ことさらそんな風に思えてくる。

しかし彼のユニークさを語るのは、ぼくの拙文よりもこの作品に譲りたい。
稀代の人物、ウィリアム・ダンピアをモデルに、創作もまじえて描かれた、傑作海洋冒険漫画がこちら。

表紙の画像を一目見てわかるとおり、まず第一に絵がいい。
シンプルで分かりやすくて、老若男女が楽しめるデフォルメが効いた軽快な絵柄でありながら、表現力が豊かで引き込まれる。
この作品で主題となる、食べ物と海や航海の描写にはとくに、その表現力が遺憾なく発揮されているように思う。

ぼくは性格が悪いので、歴史に材をとった漫画なんて言うものを見ると、すぐに参考文献の欄に目を通したくなってしまうのだが、1冊目の主要参考文献をみて、このような作品の調査に慣れた人物の仕業だと直感した。
その通り、作者は同人で長年歴史漫画を手掛けてこられた方らしい。
同人業界には、こういうとんでもなくレベルの高い作家が潜んでいる。

絵柄の良さ、作風の軽快さ、物語の面白さ、好奇心を刺激してやまない題材と、時代背景に船や風土を縦横に表現する描写力。
船の描写なんて、大胆にデフォルメされているのに正確で舌を巻く。
この時代を舞台にした海洋小説が好きな人も、そうでない人も、楽しめること間違いなしの傑作である。
できることなら、各地の小学校に、この作品の元ネタの一つである『最新世界周航記』とともに寄贈して歩きたいぐらい。なんなら小学校の図書館の定番であるところの、ロビンソン・クルーソーやダーウィンと並べたい。
なんといっても、ウィリアム・ダンピアがいなければロビンソン・クルーソー物語は存在せず、航海の歴史も博物学の歴史も、今と同じ姿ではなかっただろうから。

現在Webメディア「マトグロッソ」にて連載中。
冒頭数話と最新話前後をサイトで読めるので興味を持たれたかたは是非。


この作品の原作ともいえる『最新世界周航記』(ウィリアム・ダンピア/平野敬一訳/岩波書店)は、先だって復刊した際に大喜びで買い入れていて、まあもちろんのこと積んであるんだけど。
この作品の続巻を先に読むべきか、それとも世界周航記に先に手を出すべきか、なかなかに悩ましいところである。

そこで、本棚にこの作品の副読本に相応しい本がころがっていないかな、と漁ったところで見事に見つけ出したのがこちら。

『略奪の海カリブ ーもうひとつのラテン・アメリカ史ー 』(増田義郎/岩波新書)

これがなんと大正解。
新世界の覇権を争うスペインとイングランドの攻防を背景に花開いた、私掠船時代がいかにして始まり、そして終焉に向かったか、その200年間をカリブ海を中心に描いた良著。
まさにウィリアム・ダンピア活躍の背景そのものと言える本だった。
なんなら冒頭4行目からダンピアの『新世界周航記』に言及があり、海賊のうち最も後世に名を残した者ではないか、とまで書かれている。

欲しいなと思うと、我が本棚からは、魔法のようにまだ読んだことのない、しかもいい感じの関連書籍が出てくるのである。
ほんとうにふしぎだなあ。(すっとぼけ顔)

ええ、ええ、高校時代から積んでいましたとも。

35年近く前の本だが、参考書籍と内容からして、おそらく概ね今でも大きな変更のない内容ではないかと思う。
イベロアメリカ史を専門とする著者によって、基本的な内容が時系列で一通りおさえてあって、入門書として良い内容であった。
残念ながら絶版だが、参考文献と内容からするに、今でも十分に通用するのではないかと思う。
たいへんよかったので増田先生の著作、他のやつも買います。


金銭を与えると確実にえさ代になります。内訳はだいたい、本とコーヒーとおやつです。