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リアル地理データを使った交通シミュレーションでできること

交通シミュレーションのための「A/B Street」開発の背景

先日、OpenStreetMap Japan主催(OSGeo財団日本支部後援)で、A/B Streetの開発者である Dustin Carlinoさんを迎えてのMeet-upが開かれました。A/B StreetはOpenStreetMapの主に道路データを使って、車線を増やす、自転車専用レーンを作る、信号を作るなどのシミュレーションを行い、混雑の程度や移動のしやすさなどがどう変わるかを可視化するオープンソースソフトウェアです。

Carlinoさんは今はイギリスに住んでいますが出身はアメリカ。ゲームを作りたいという理由でコンピュータ・サイエンスを専攻したそうです。アメリカの多くの地域がそうであるように、移動の手段はほぼ自家用車しかないところで育ち、もっと徒歩や自転車で移動しやすい町を作りたいというのが開発の動機でした。自分たちの好きなように道路をデザインできる Streetmix ("Design, remix, and share your street. Add bike paths, widen sidewalks or traffic lanes, learn how all of this can impact your community.") からヒントを得て、同じように、都市計画の一環として地域に住む人たちに関心を持ってもらうために使えるもの、住民の関与を助けるものを作りたかったとおっしゃっていました。

Streetmixでは自転車専用レーン、植栽、歩道などを選んで道を作るシミュレーションができる

ある町で何人くらいの人たちが何時ごろどこからどこへどうやって移動しているのかーー。その現実に近いシミュレーションをすることができれば、行政に対して、たとえば歩きやすさを向上させるための、より説得力のある提案ができると考えたそうです。

15分徒歩圏にスーパーはいくつある?

この日、Carlinoさんがデモしてくれたプロジェクトの1つは15-minute neighborhood Explorer 。GISの空間バッファと似ていますが、違うところは直線距離ではなく、通る道を考慮して、ある地点から15分歩いて行ける範囲の中にたとえば飲食店が何軒あるか、郵便局や銀行はいくつあるかを数えて教えてくれます。歩いて5分以内は緑、5分から10分はオレンジ、10分から15分は赤と色分けされていて、単純なバッファよりも効果的な空間分析ができます。歩く速度も変更できます(デフォルトは時速3マイル、約5キロ)。Meet-upが開かれた東京の秋葉原では、15分徒歩圏内にコンビニが何と60店以上(!!!)ありました。POI (point of interest)データはOpenStreetMapのものです。

A/B Street (https://a-b-street.github.io)

住民を巻き込んだコミュニケーションのためのツール

イギリスに移住してから取り組んだのは、Low traffic neighbourhoods (LTN)と呼ばれるコンセプトです。幹線道路が混雑していると、グーグルマップなどは「この先は混んでいるので、細い道を通って迂回して」とアドバイスしてくれますが、これは周辺地域に住む住民にとっては大迷惑。通過するだけの車が入ってくるのを防ぐため、道に障害物を置くところもあります。しかし、こうした障害物は地元住民の移動にも影響を与えるため、様々な議論が起きていました。Carlinoさんは 交通シミュレーションが住民向けのコミュニケーションに有効と考え、主要都市の一つであるBristol市での説明会などでも使ったところ、住民の不信感や不満の解消につながったのだそうです。

A/B Street

日本のOpenStreetMapコミュニティに聞きたいこと

日本語を学んだことがあり、カタカナが読めるというCarlinoさん。このほかにも A/B Streetの応用例をいろいろ見せてくれました。日本のOpenStreetMapコミュニティに対しては、こうした交通シミュレーションに関心があるかどうか知りたい、何かコラボできたら…ということでした。あとは、日本における交通の最大の課題は何かという質問があり、大都市圏と地方で課題はだいぶ異なる、地方では人口減少が進む中、移動手段の確保が急務…などといったお話をしました。

A/B StreetのフロントエンドはMapLibre、バックエンドにはRustを使っているということで、そうしたソフトウェア開発周辺のお話もありました。



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