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急激な円安と日銀や日本政府の方針

はじめに

皆様も日々のニュースで外国為替相場で日本円が急激に下落していることを毎日目にすることがあると思います.なんとたった一ヶ月で10円以上も円安が進みました.今回はなぜこのような現象が見られるのかと,それに対する日本政府と日銀の方針について考察していきます.
 

なぜここまでの円安になったか?

これは,簡単に言ってしまえば,米国の中央銀行であるFRBが金融緩和を止めて出口戦略へ移行したためです.FRBは2020年に始まったCOVID-19パンデミックの拡大で収縮した経済活動を活性化させるために前例のない規模の金融緩和とゼロ金利政策への転換を行いました.しかし経済活動が再開し,需要が回復すると米国では今度は急激なインフレーションに見舞われています.FRBはこの急速なインフレーションを食い止めるためにゼロ金利政策をすでに終了し,3月には0.25%の利上げを行い次回は+0.5%のレート上昇は確実だと言われています.また同時に市場からの無制限の債権買い取りなどの金融緩和で溜め込んだバランスシートの縮小も5月から始める予定です.この影響で,米国の10年物国債の金利は上昇し,これがゼロ金利を維持しようとする日本国債との金利差になり,円が売られ米ドルが急激に買われている原因になっています.
タイミングが悪いことに資源国であるロシアがウクライナへ侵攻を行ったために世界中でロシアへ経済制裁を課すことで資源価格が高騰し,原油などの必須資源を輸入にたよる日本は経常収支の悪化でさらに円安が進むという2重苦の状態です.
これは投機筋が空売りを仕掛けて急激な為替変動などが起きている状態ではなく,実需による円安ドル高ということです.
その結果,円は20年ぶりに129円代を記録しました.これは,2002年以来の水準です.
通常適度な円安は日本経済にプラスだとして,120円付近のときは日本政府も日銀も円安を容認する姿勢を見せていました.126円を一気に超えた時点で,さすがにこれはやばいと気づいたのか急激な円安は好ましくないという趣旨の発言をして口先介入を試みましたが,結局はなにも対策を取らないことを見透かされ4/20日に129円まで円安が進行しました.

日銀と日本政府の対応

日銀は黒田総裁の掲げた物価上昇率2%を実現するために金融緩和の姿勢を崩そうとしていません.これだけ円安が進んでも米国債につられて利率が上昇した日本国債を指値オペでを行い買い増ししました.つまり日米の金利差は広がる一方です.
日本政府は,経団連からの苦言も効いたのか現在の円安は悪い円安という世論誘導を行っています.こうすることによって政策転換の機会を伺っているようです.
日銀は基本的に政府から独立した機関なので,完全に日本政府の意向を無視することはできませんが,独自の金融政策方針を取ることが認められています.すくなくとも黒田総裁在任中は現在の無制限での金融緩和とゼロ金利誘導は続けるでしょう.これは,円安を止める手段を現状では取らないことを意味します.

ロシアはルーブルの防衛に成功

日本円以外にも同時期に急激な通貨安に見舞われた国があります.それは戦争当時国のロシアであり通貨ルーブルはウクライナへの侵攻開始直後に急落しましたが,現在はほぼ戦争前の状態まで回復しています.
これは,ロシア中央銀行が通貨安の防衛策を発動したためです.ロシア中央銀行はルーブルが急落すると政策金利を20%近くまで上げて対抗しました.こうすることによって投機筋によるルーブルを借りいれてレバレッジをかけた上で空売りされることを防ぐことができました(政策金利の上昇による教科書的な防衛手段です.こうすることによって投機筋の借り入れコストを上昇させ空売りを防ぐことができます).またロシアは経済制裁により外国からの輸入がほぼ停止しました.一方で資源国であるロシアはいまだに原油と天然ガスを欧州を中心に輸出しています.この影響でロシアの貿易による経常収支は黒字であり外貨を獲得(主にユーロ)しそれをルーブルに替えることでルーブルを元値まで戻すことに成功しています.もちろん政策金利上昇による副作用でロシア経済はダメージを被っていますが,ルーブル安を食い止めることには成功しました.

日本政府・日銀がとり得る対策

これ以上の円安を食い止めるには,為替介入と利上げが通常ならとり得る選択肢です.
まず為替介入ですが,これを行った場合にはどれぐらい効果を挙げられるか定かではありません.外貨準備を使った円買いのドル売りを為替市場で仕掛けるわけですが,これは米国や欧州の理解が得られるかは不透明です.また投機筋に狙われた場合にはこの為替介入時に狙い撃ちされる可能性はかなり高いと思います.通常は為替介入時に利上げも同時に行い投機筋の日本円の借り入れコストを上昇させますが,今回は日銀が国債の指値オペを続けているように金利は限りなくゼロで借り入れコストは低いままです.
 
つぎに日銀が現在の金融政策を見直して,利上げを段階的に行った場合です.ことのときは円安は食い止めることは可能だと思います.おそらく,今のネックラインである125円代まで一気に戻せるでしょう.しかし重大な副作用として景気の下押し圧力になります.住宅ローンなど民間部門,企業の銀行からの借り入れなどで利上げの影響が生じてローンの利率などが上昇し,日本経済にとっては景気の下押し圧力になるためあまりありがたい状況ではありません.
 
では何も対策を取らなかった場合はどうなるでしょうか?これは次のレジスタンスとして働く2002年の最高値である135円,そこを突破したら,1998年に記録した146円まで円安が進む可能性もゼロではありません.短期的に135円にタッチするのは時間の問題で,金融政策の正常化が行われないなら来月には140円代というのは現実的な数字です.

まとめ

円建ての資産を私はほとんど持っていませんが,日本に住んでいる人たちで日本円建ての貯金のみの方は資産運用の方法を根本から考え直したほうが良いと思います.
現在の急激な円安は急速な日本の国力低下を反映した結果ともいえます.金融緩和をしておきながら消費税を増税するという愚策,必要な資源を輸入に頼る経済構造,成長戦略の欠如などここ数10年でやってきたツケがすべていま顕在化しています.
すべての問題を先送りしてきたことがここに来てボディブローのように効いてきたように思います.今回の急激な円安の成り行きがどうなるかこれからも注視していこうと思っています.
 
 

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