『返済しないと』スピンオフ

『いつかパンダとコントを』では、毎日YouTubeにコントをアップしています。

今回お送りするのは、その中の1本『返済しないと』のスピンオフストーリーです!

コントとともに是非!!


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「返済しないと」スピンオフドラマ

「女子大生くん」

前田知礼(はりねずみのパジャマ)


私はサヤカ。この春ずーっと行きたかった大学に通うため田舎から上京してきた。あんななーんにもない田舎なんて捨ててやる。古くて狭い家、バカ真面目で面白みのないママと、頑固で偉そうな親父。居酒屋を何軒も経営してるからって威張ってるみたいだけど所詮、井の中の蛙。ちっさい町のちっさい店。ダッサい同級生に、ウザいし無能な教師たち、出稼ぎの外国人に増え続ける老人たち……まだまだ言いたいことはいーっぱいあるけど、と・に・か・く地元は私には狭すぎた。具体的にやりたいこととか就きたい仕事は特にないけど、私にはきっと“ナニカ”ある。“ナニカ”は“ナニカ””。てか、そんなの東京で見つければよくない?(笑)この場所は夢で溢れてる。初めての東京、初めての大学、初めての一人暮らし。今日から私は自由。ビバ!バラ色のキャンパスライフ!

な・の・に学費と家賃以外は自分で稼げってさ。は?だる過ぎるんだけど。社長のクセしてケチかよって話。「大学4年間なんてホント一瞬だよー」って新歓飲みで先輩方も言ってたし。授業に友達に恋愛に……学生生活を謳歌するには時間とお金が必要なの。でもでもでもバイトなんかに使う時間はマジでないから。遊ぶために働くのにそのバイトで忙しくなるとか本末転倒じゃない?意味なくない?遊ぶ時間ないじゃーんみたいな……なーんて思ってたら、入学式で仲良くなった親友のユキからピッタリな話が舞い込んできた。

サヤカ「しょうがくきん?」
ユキ「そう!奨学金を申請すれば、毎月」
サヤカ「(ユキの手を見て)5万円!?ホントに!?」
ユキ「サーヤも行ってみない!?」
サヤカ「行く行く!」

うっひょー!!!!!月に5万!!!月に5万だよ!!!5万って1ヶ月バイトしてやっと貯まる額だよ!!!それを働かずに貰えるって最高かよ!!!……まぁ話がうま過ぎるなぁーとか思ったけど、「日本学生支援機構」っていう、なんか真面目そう?な感じの名前だから絶対大丈夫。説明会もみんな行ってたし。まぁ学生課のおばさんの説明は、昨日サークルの新歓飲みでオールしちゃったから寝てて覚えてないけど(笑)……あとそうそう。ユキが、壁際に立って説明を見てる眼鏡にヒゲの男を見て「あの人も一年かなー」って言ってたのは笑った。あんなのがタイプなのよ(笑)って。短髪で眼鏡にヒゲ。白いTシャツに襟のついた真っ黒のジャケット。あとベージュのチノパン。ユキ、ああいうガタイのいい感じがタイプなのかな(笑)。私はもっと細くて髪も長くて、いつもオーバーオールにニット帽かぶってるようなクリエイティビティ溢れる……まぁ、そんな理想的な人いるはずないんんだけど(笑)

で・で・で!この話には続きがあって。説明会のあと、朝からなんにも食べてなくてお腹ペコペコだったからユキと学食に行ったのね。てか昼休憩の学食ひと多すぎ。席足りてないっつーの。食券の自販機も1台だけだからいっつも行列。で、食券買おうとして、卒業祝いで買ったcoachの財布をバックから出して開けようとしたんだけど、中古だからチャックがちょっとバカになってて全然開かなくて。えいって力を入れたら……パラパラパラーっつって、小銭とかレシートが何枚か地面に落ちたの。うわーだるーって思いながら慌てて拾って、食券を買おうとしたら。

「落としたぞ」

誰かがクーポン付きレシートを差し出してんの。で、顔見たらさっきのヒゲ眼鏡。いらねぇーよそんなレシートって思って。「ああいいです。たかがクーポンだし」って言ったら。

「無期限有効だけど」

いやいらないし。てか、その焼肉屋チェーンも卒業式のあと友達と行っただけで、もういかないし。「行かないんで」って結構強めに行ってやったの。

「クーポンを無駄にするやつはクーポンに泣くぞ」

いやしつこって思って、まぁ、めんどくさいから受け取ったんだけど。まぁ、そのあとヒゲ眼鏡は「オムソバ 310円」の食券を買ってどっか行ったけどね。もうムカついたからレシートを破って捨ててやった。

「あの」

もう次は誰よーって思って見たら、5円玉を差し出す手があんの。顔を見ようと視線を徐々に上げていく瞬間、恋に落ちて行くのがわかった。細くて白い腕、オーバーオール、ニット帽……私の中を電気が駆け抜けた。この人だ。この人しかいない。

彼はタクヤ。年上だけど一浪して入学してるから学年は一緒。とにかくタクヤの才能は凄い。夢は映画監督で、ショートフィルムのコンペティション?でグランプリ獲って、在学中に長編デビューする予定なんだって。頭ん中にはいくつも構想があって今はそれを練ってる段階らしい。こんな才能に出逢えるなんてやっぱり東京は最高。私は全てをタクヤに捧げる。今はタクヤも私も飲んで遊んでばっかだけど、これもインプットの一つらしくて、ゆくゆくは作品に昇華させるって言ってた。やっぱり私には“ナニカ”あるし東京には夢があった。私の未来はキラキラに輝いてる!!待ってろ、未来の私!!

●オープニングタイトル
奨学金関係の書類や印鑑、学生証、お札や小銭が一面に散らばっている。
『奨学金セミジマくん』のタイトル。

●日本学生支援機構・外(5年後)
「日本学生支援機構」の看板の文字が剥げかけており「ミンミンファイナンス」のロゴがうっすら見えている。

●同・室内
デスクで作業をする職員たち。電話口に怒鳴っているのは、リーゼントヘアーの伊崎。そして、社長席には短髪に眼鏡にヒゲ、白Tに黒ジャケットの男が凛とした態度で座っている。彼こそが蝉嶋である。

伊崎「社長、重岡サヤカの野郎また電話出ないっすね」
蝉嶋「確か前回もジャンプしてるよな」
伊崎「つぅーか返済自体一度もしてないっすね」
蝉嶋「行くぞ伊崎」
伊崎「はい」
蝉嶋「パンクする前にきっちり回収しねぇと」

●サヤカのアパート・外
築30年の2階建木造アパート。黒のエルグランドがアパートの前に停まる。助手席に伊崎、後部座席に蝉嶋。
伊崎「誰っすかねアイツら」
サヤカの部屋の扉の前には、派手なスーツを身に纏った前田と吉行が立っている。
吉行「兄貴、日本学生支援機構事務所帰って確認した方が」
前田「せやな。一旦、日本学生支援機構に戻ろか。ほな、また来るよってに」
吉行「(驚いて)あ、兄貴」
前田「せ、せみじま……」
蝉嶋「何やってんだ。そいつは俺たちの客だ」
吉行「……すんまへん」
蝉嶋「テメェどこの奨学金だ?」

●廃工場
鉄屑の上に血だらけで横たわっている前田と吉行。
前田「蝉嶋……」

●駄菓子屋
子供たちで賑わう古き良き駄菓子屋。店の前に置いてあるビールケースに座って駄菓子を食う蝉嶋と猫井。猫井は黒のスーツに黒のネクタイ。蝉嶋はアメリカンクラッカーを、猫井は「ようかいけむり」をそれぞれ持っている。
猫井「あのサヤカって女ねぇ、相当悲惨なことになってるね」
蝉嶋「あそう」
猫井「コロナの煽り食って経営する居酒屋が全部潰れて父親が自殺。母親はマルチ商法にハマって仕送り用の積立まで使い尽くしてる」
蝉嶋「それであのボロアパートにか」
猫井「うん。大学通いに上京したはいいけど、授業もろくに受けずにサークルに飲み会で4年間を消費して……まぁ、典型的なパターンだよ」
蝉嶋「男は?」
猫井「妊娠が分かってすぐ逃げてったらしいよ。噂だけど何人もと関係持ってたらしいね」
蝉嶋「そいつは今何してんだ」
猫井「博電新社のエリート広告マン。まぁ、元から奨学金もいらないお坊っちゃんだったみたいだけどね……サヤカは本当に可哀想だよ」
蝉嶋「でもうちから毎月5万借りてんだ。どんな背景があれしっかり回収しねぇと」
猫井「頑固だねぇ、蝉嶋くんは」
蝉嶋「1円も無駄にするわけにはいかねぇ」

●サヤカのアパート・室内
畳の上にはシワシワの千円札と小銭。合計2497円。
サヤカ「マイ、最期に何食べたい?」
マイ「さいご?」
サヤカ「あ、ううん。今日の夜ご飯!」
マイ「やきにく!」
サヤカ「焼肉……あ」
サヤカは襖を開け、取り出した段ボールをガサゴソと探る。
サヤカ「あった」
サヤカの手にはボロボロになったcoachの財布。チャックが壊れて開かない。えいっと力を入れると開けた拍子に5円玉が飛び出す。
マイ「5えーん」
サヤカ「(財布を探り)え……ない……ない……」

●学生食堂(回想)
蝉嶋「クーポンを無駄にするやつはクーポンに泣くぞ」
サヤカが地面に捨てたクーポンには「3000円2500円で食べ放題!!未就学児無料」の文字。

●サヤカのアパート・室内
遠い目をしているサヤカ。
マイ「ママ?」
サヤカ「ごめん……焼肉、食べれないや」

●繁華街(夜)
獣のような目で繁華街を歩く前田と吉行。前田の手には金属バッド。吉行の手にはゴルフクラブ。
前田「蝉嶋ぁー」

●サヤカのアパート・風呂場
浴室のドアにガムテープを貼っていくサヤカ。マイは空の浴槽に入って楽しそうに歌っている。
マイ「♪でんでんむーしむしーかーたつーむりー」
マイは洗剤が2種類入ったバケツを抱えている。
サヤカ「マイ、その二つマゼマゼしといて」
マイ「わかったー」
マイ、洗剤の蓋を開け注ぎ出す。
サヤカ「ごめんね……」

●エルグランド・車内
伊崎「着きました」
蝉嶋「おう……お前はここでじっとしてろ」
トランクから物音と呻き声が聞こえる。
 
●サヤカのアパート・風呂場
視界がぼやけ始める。マイの手を握るサヤカ。
パリンッ!!突然、浴室のガラスが割れる。
前田「セミジマー!!」

●同・裏
前田、浴室のガラスに金属バッドを突っ込んでいる。バッドをかわし、平然と立っている蝉嶋。
蝉嶋「またお前らか」
驚いた表情で窓から顔を出すサヤカ。
吉行「うわー!!」
吉行、一目散に逃げていく。
蝉嶋「二度と来るなっつったろ」
すごく戦って、蝉嶋が勝つ。
サヤカ「あの……ありがとうございます」
蝉嶋「こっちは自分の身を守っただけだ。借りた奨学金はどんな理由があっても責任もって返せ。それがお前の義務だ」
サヤカ「……はい」
伊崎「しっかり歩けコラ!!!」
伊崎が連れてきたのは傷だらけでスーツもボロボロになっているタクヤ。
サヤ「タクヤ……」
蝉嶋「とりあえず今日までの奨学金はこいつに払わせといた。あとはお前たちで話し合え」
サヤ「タクヤ!」
地面に倒れたタクヤを抱き締めるサヤカ。

●エルグランド・車内
伊崎「なんで社長、あの女に優しくするんすか?」
蝉嶋「あいつはとっておきのカモだ。死なせるにはもったいない」

〈終〉



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