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じぃちゃんのおもひで①

後から自分の文章を見ると、やたら堅く、理屈っぽいと気づく。本来、そんな堅い人間ではないので、今回は少しはっちゃけつつ、身内の恥を晒そう。

母方の祖父の話。私が12歳のときに他界した。

この祖父、偏屈で、酒癖が悪くて、口も悪くて…しかし、一族郎党皆頼っていた。なぜなら、この祖父、ハイスペック&レジェンドじじぃだったから。

書き出したらきりが無いので、ひとつ挙げるなら、『腹巻き』である。この腹巻き、ただの腹巻きと思いねぇ、通帳、実印、現金…じぃさんの財産そのまま腹巻きに仕込んであった。それこそ、死ぬまで。
「家に置いてて、盗まれたらどうすんだ。」
が理由。追い剥ぎに遭うとかは考えないんだな…。

じぃさんが死んでから聞いた話。それは母の結婚式の日のこと。

御祝儀の計算が合わない…平たく言えばお金がたらない事態に陥った両親。慌てふためく若き父。そこにハイスペックじじぃ登場。
「なんだ?金が足らねえのか?なんなら立て替えとくぞ?」
と、例の腹巻きからサクッと札束が出てきた、らしい。
何で現金で…この事態を予測していたかのような。

この事件以来、一族では「腹巻き万能説」が囁かれる。最も心酔したのは、その一件で救われた母だった。

時間は経って…私が大学院の卒業旅行に海外へ行くことを母に告げると
「あんた、腹巻き持ってたでしょ。あれ貸しなさい。」
と、せっかく買った可愛い腹巻きのカイロを入れるポケットに、ジップ袋に入れたドル札の束を突っ込み、縫いどりしだした(あのぅ、行き先フィジーなんだけど…)。
「腹巻き、何があっても身につけておくんだよ!こんだけ(500$)あれば、何とかなるだろ」

「…えっと…行き先通貨違うから、換金の手間もあるし、それに首から下げるやつにクレジットカード入れてるから大丈夫だよ(本音は常夏の島に行くのに、腹巻きが恥ずかしかった…)。」

ハイスペックじじぃの娘は折れない。

「あのなぁ、腹巻きに入れておけば、追い剥ぎにでも遭わない限り安全だべ?」

…なんとなく無理矢理納得させられて、結局巻いて行く羽目に。

しかし、この500$が役に立つときが来たのだ。

旅行も終盤にさしかかったところ、会計担当の同行者が青ざめてやってきた。

「どうしよう…お金、落としたっぽい」

マジかーい!?

「でも、残金いくらもなかったよね?」
「…最終日の宿代が…」
orz…
「トラベラーズチェックは?」
「…用意してない…」
OMG!!

宿代だけではない。空港までのバス代、食事、どんなに安く見積もっても5万円はかかる。

…ん?5…

おもむろに自分の腹をまさぐる。縫いどりをリッパーでほどき、母が持たせた500$入りのジップ袋登場。

「換金すれば、なんとかなるでしょ!」

いの一番に換金所へ行き、フィジードルに変えてもらい、事なきを得た。

腹巻き万能説。恐るべし。

何が一番恐ろしいって、お守りに、と持たせてくれた500$、てっきりお小遣いかと思っていたら「はぁ?文字通りお守りだよ。耳揃えて返しな!」

ということなので、この後、スペインに行く予定だった母に、500€で返した。

そして、全く同じことを、アメリカに仕事で出かける夫にした私。

腹巻き万能説は続く。

#じぃちゃん #思い出

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