塔2024年5月号若葉集より(好きだなと思った歌10首)
塔の会誌を読みながら、ああいいなと思った歌に印をつけています。印をつけただけだと忘れてしまうので書き写すようにしています。
こちらではそのうち10首を紹介します。
提灯のともる喪の庭杏実(あまんど)の木は小さなる花芽もちをり/横井典子
暗い中にもこれから伸びていこうとするものがある。
暗い中の提灯と、小さい花芽だけにぽっと灯りが灯っているようで美しさを感じた。
ゆっくりとやさしく話す私より母の言葉が父に伝わる/片山裕子
高齢の両親なのだろうか。
自分もつい老人扱いしてしまいがちになるのでわかる、と思いつつ、両親の二人の関係性が伝わってくる。
夫婦の関係は親子とはまた違うつながりがある。それをどうこう思うわけではなく滲み出ている。
いま居ないあなたに話したいことが箇条書きから手紙にかわる/立岡史佳
少し事務的な箇条書きから、あれを話そう、これを話そうと感情がのってきた。
手紙には、あなたに対して言いたいことがたっぷりと含まれているのだろう。
地下鉄のホームの下の暗がりを照らす誰かの自転車の鍵/音羽凜
こんなところにも明かりがあることに気づいたのだろう。
落としてしまった人は気の毒だが、それも誰かを振り向かせるものになり得ると思った。
吐きながらトイレの床のタイルから膝を浮かせるときの重力/名森風佳
トイレで膝は付きたくない。しかし吐くくらい体調が悪い。吐くためには体を少し起こす必要がある。
精神と体と動かす意志の絶妙なバランスの瞬間を捉えた一首。
ああ空が傷ついている 知ってるよ傷ついているのは窓ガラス/則本篤男
大袈裟に驚きながらすぐにそんな理由は知っていると言い直すおもしろさ。
知ってはいても、その傷ついた空に思いを託しているように感じる。
セーターにたばこのにほひあなたとはいつも遠くで燃えてゐる森/藤田ゆき乃
あなたのセーターにたばこの匂いがついている、と読んだ。
自分と一緒にいる時とは違うあなたのことを表現する「燃えてゐる森」の暗喩が感情を増幅させる。
貸したいと言われて借りた本だから長い手紙のように読みたい/古井咲花
貸したいと思うには、きっと気にいるはず、共感したい、わかってくれるそういう思いも入っているのだと思う。
本そのものよりも、相手の気持ちも含めて読むという行為を「長い手紙」表現しているところがいい。
「トムとジェリー」みたく体がぺちゃんこになるわけもなく鼻血をぬぐう/堀駿太
四句目の展開が面白い。
客観的に見ていながら、実は自分のことだったというところも面白い。
痛みとはわれだけのもの夫でも子どもたちでもなくてよかつた/小金森まき
二句目までは、自己中心的に他人には自分の気持ちや傷心はわかるはずがないという主張なのかと思って読んでいたが、三句目以降で良い意味で裏切られた。心が解き放たれた。
大切な人を思う気持ちをこう表現できるのかと感動した。
以上です。
お読みいただきありがとうございました。
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