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塔2024年4月号若葉集より(好きだなと思った歌10首)

塔の会誌を読みながら、ああいいなと思った歌に印をつけています。印をつけただけだと忘れてしまうので書き写すようにしています。
こちらではそのうち10首を紹介します。

死神に見えるだらうかおもちやからたましひのごと抜き取る電池/小金森まき

他のおもちゃに使うためにまだ動けるはずの電池を抜かれてしまったのだろうか。死神、たましひと言うドキッとする言葉選びとおもちゃの電池であると言うギャップが面白い。

このひとはきっと人間を好きなひと私はそれがひどく寂しく/石田犀

この人に好意を寄せていて、優しかったり明るく接していたりするがそれが自分だけではなかったことを嘆いていると読んだ。「人間を好きなひと」にぎゅっと思いが込められている。

幸せか不幸なのかが決められず空欄にする質問一つ/立岡史佳

空欄なのがいい。アンケートでいくつか手軽に答えられる質問が並ぶ中で何気ない質問に止まってしまうことを想像した。どっちともある、どっちともない、そもそも二者択一で決められることでもない。ぽっかりと空いてしまった空間は今後埋まることはあるのだろうか。

張り紙が傾いていて傾いて読む人から聞く臨時休業/古井咲花

形がすごく面白い。読みながら自分も傾いてしまう。どっちかというと自分も傾く方だなと思った。傾いて読むくらいなので、きっと臨時休業の理由も細かく書いてあるのではないかと思う。でも読む人は色々端折って臨時休業だけ伝えたのかもしれない。傾いて読む人の性格やその人との距離感が日常の中に浮き出る瞬間を切り取った素敵な歌だと思った。

コンビニの防犯カメラに朝と夕映るであろう単身の父/ダヤン小砂

離れて暮らしている父は、料理は不得意で近所のコンビニで済ますことが多いのだろう。そんな父を心配をしていることが「防犯カメラ」にもつながっているようで、主体の父を思う心情が伝わってくる。

15℃かあったかいなと思いつつ両親のいる神戸へ帰る/中嶋学

冬の日の少し暖かな日なのだろう。普段は両親と離れて暮らしている。ちょっと幸せを感じるくらいの冬の暖かい日と両親の取り合わせがほっこりする。帰る時に温度のことを気にするのは、普段は寒さには気をつけていて欲しいという主体の気遣いもあるように感じた。

聖劇で羊の役を当てられてべいべいべいべいマリアを仰ぐ/細尾真奈美

どの役も劇には欠かせないものだが、マリア様や天使などの配役がある中で羊役となった気持ちはどういうものだっただろうか。当てられてということから少し不本意な気持ちがあったかもしれない。でも羊の役を当てられた人はとても真面目な印象を受けた。「べいべいべいべい」という言葉にならない鳴き声の表現が8音使っていて、きっちりと最後まで全うした印象につながっている。

初七日に冷凍庫から母のカレー見つけて父はまた凍らせる/大林幸一郎

食べてしまったら亡くなってしまった母の痕跡がひとつなくなってしまう。せめて今ではなくもう少し一緒にいたい、そんな切ない思いが伝わってくる。実際に自分も義母が亡くなった後に冷凍していたカレーや、漬けた梅干し、作っていた味噌を大事そうにしていた義父を見ていた。大切な時間をずっととどめておきたいですね。

繁華街はひかりばかりで行く人の影もこんなに綺麗に消えて/初夏みどり

ネオンや看板や街灯の光で繁華街は明るい。そこを通る人たちの影もうっすらとしてすぐに消えてしまう。でも影は実は消えていないし、その場所から離れたら濃い影がまた出てきてしまうのだろう。大勢の中では見えにくいが、それぞれ実は影を抱えて生きているということを反語的な表現の中で炙り出されていると思う。

原発の必要性を理髪師は語れり剃刀滑らせながら/松本淳一

髪を切ってもらっている間の会話は、その時のニュースや流行り物の話題など当たり障りのないものが多いが、この話題は呑気にしていられない。身動きの取れない体制の中で、しかも理髪店なので当たり前だが刃物を用いられ、顔に剃刀が当たっている状況。ドキッとする一瞬を掬っている。

以上です。
お読みいただきありがとうございました。

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