日々の機微(74)ネタバレ注意 村上春樹『1Q84』の気になったシーンまとめ


村上春樹さんの『1Q84』を読み終わりました。(正確にいうとオーディブルで聞いたのですが)

最後の方は結末が気になって2.5倍速で聴いてしまいました。

これまで村上春樹さんの小説は大学の授業がきっかけでいくつか読んだことがあります。

かつて受けた甲南大学の現代文学の授業では、村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』と梨木香歩さんの『裏庭』を読みました。

どちらも精神世界的要素が色濃い作品です。

そして今回読んだ『1Q84』も、これまで読んだ村上春樹さんの小説同様、やはり精神世界の要素が強い作品でした。話の筋は、どちらかというと前述の『裏庭』や宮部みゆきさんの『ブレイブストーリー』に近いような気がしました。

これらの物語に共通するのは異世界自分探しです。

『1Q84』のあらすじ

『1Q84』では、異世界の1984年(1Q84年と呼ばれる世界)で青豆と天吾が小学生以来の再会をするという物語です。

その過程で精神的な痛みを伴ったり、過去の自分を乗り越えたりしていきます。

パターンとしては、日本の伝統的な物語スタイルの貴種流離譚のように感じましある。

貴種流離譚とは、身分の高い人が、罪を犯し世界を追われて、別の世界に行き、そして元いた世界に戻っていくストーリーパターンのことを言います。

『1Q84』はというと、数学の神童と呼ばれた天吾とスポーツで秀でた才能を持っていた青豆という2人の主人公が登場します。

しかし、それぞれに幼少期にトラウマのような暗いバックボーンも抱えています。

宗教2世で両親と絶縁している女性主人公の青豆。そして父親がNHKの集金人で母親を物心が着く前に亡くし、さらに父親と反りが合わなかった男性主人公の天吾。ふたりともに共通しているのは親との確執です。

その2人が30歳を迎える1984年に、並行世界である「1Q84」の世界に迷い込みます。

それぞれ大きな課題に立ち向かっているなかで、次第に2人の運命が繋がり、20年近く経過して2人はお互いを求めていきます。

村上春樹の世界で共通している真っ暗な世界

相変わらず村上春樹さんの物語の世界では、真っ暗なカオスの中で運命を確信するシーンが登場します。

先般読んだ『ねじまき鳥クロニクル』でも、闇の中で嫁の兄と戦うシーンがありましたが、今回は宗教団体のリーダーを青豆が暗殺するというシーンが真っ暗な世界のなかで描かれていました。

青豆は、闇の中で宗教団体のリーダーを暗殺しようとしますが、リーダーは事前に全てを悟った上で青豆に暗殺されることを望みます。

そのシーンは映画『マイノリティリポート』で、主人公が人を殺すという運命を悟った瞬間と酷似していました。

今まで自分で鍵をかけていた精神の扉を、暗闇の世界で誰かと対峙することで開けていきます。

最終的に青豆は宗教団体のリーダーの提案に従って、リーダーを暗殺します。

このシーンのミソは宗教2世の青豆がリーダーの提案を受け入れることかなと思いました。今まで拒絶していた青豆自身のバックボーンを受け入れるように読むことができました。


脱出は産道を潜って

これも『ねじまき鳥クロニクル』と同じパターンだと思うのですが、暗く細い道を通っていくシーンがあります。それは青豆と天吾それぞれのトラウマを乗り越えて2人が出会い、1Q84の世界から元の1984年に戻っていくシーンです。

村上春樹さんの小説では、課題を乗り越えて主人公が完全に生まれ変わるときに、しばしば暗く細く苦しい空間を抜けていきます。

そして、今回もそのようなシーンがクライマックスで登場しました。

村上春樹さんの小説を読んでいると強い既視感を感じることがあります。『1Q84』の描き方や物語の構成は『ねじまき鳥クロニクル』とは全然違いますが、ひとつひとつのシーンでは共通する部分が多く、型のような展開を感じます。

読み終わったあと、『ねじまき鳥クロニクル』よりは、モヤモヤが少なかったですが、超長編小説の終わり方としてはやはりスッキリしない感じがありました。

2日たった今もすごくモヤモヤしています。

次は『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』か『騎士団長殺し』を読むべきかと思いますが気が重いです。


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