見出し画像

がんばろう北陸①大きな地震が起きた日(2024. 1. 1)


能登半島地震により犠牲となられました方々にお悔やみを申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。(1900文字)


穏やかな元日の昼下がり、
家族は思い思いに、のんびりと過ごしていた。
去年の今頃は、特養から義母が戻るというので、私は戦々恐々としていた。義母の在宅介護は220日間続き、夏には義母を見送った。
私は『note』に思いを綴り始めた。
義父は腰椎圧迫骨折で2度入院。認知症の症状が顕著になり、要介護1の認定を受け、デイサービスデビューを果たした。
義父の借金(税金などの滞納)の支払いの目途をつけた。まだ出てくるかも知れないけれど、あとは知らぬ。
ともかく、本当によく頑張ったよね、と感慨に耽っていた。

午後4時、夫はシャワーをすると言う。
私は、お正月休みの間に読もうと用意しておいた、
岡本太郎の『強く生きる言葉』を開く。
この人は、かっこいい。精神が男前なのだ。

そこへ地震が来た。
揺れはわりと早くおさまり、安堵。
二女がスマホを見ながら、「震源は能登」と教えてくれた。
「また能登だ」と言って間もなく、今度はものすごく大きく揺れた。
一緒にこたつにいた二女と目が合う。
途端にスマホの緊急地震速報が一斉に鳴り響く。
mダックスが吠える。吠えまくる。
横の揺れがどんどん加速する。ガラス戸がガタガタ鳴る、
「な、なに?」「うそやろ」
振り幅がますます大きくなっていく。
家が軋む音がする。潰れるのかな。
三女がテーブルの下から「頭(守って)!」と叫んでいる。

地鳴りなのか、砂嵐のようなシャーという音が聞こえていた気がする。
町が静まり返っているのだろう。
外の広場に一人でいるような、奇妙な感覚。

ガチャンと何かが壊れる音。何かと何かがぶつかり合う音。
二女はmダックス犬が飛び出していかないように、必死で押さえ込んでいる。
ときどき、ほんの一瞬の間があり、さらに激しく揺れ出す。
こんなのは初めてだ。まったく、生きた心地がしない。

ようやく揺れがおさまり、テレビに目を向けると、見たことのない画面。
大きく、「津波」「逃げて」のテロップ。

「え、ここに津波来るの?」
それでも、テレビの中の人が、私に向かって「今すぐ、逃げて!」
必死の声で指示を出してくる、繰り返し。

三女が帽子をかぶり、コートを着て、mダックスのごはん、おやつ、ペットシートなどをカバンに入れ始めた。
二女もバッグを肩にかけている。
ふたりとも長靴をはいて玄関に立っている。
は、はやい!

夫、そう、夫!
なんと、夫は裸で風呂場にいた。今逃げなくてはというときに、素っ裸なのだった。
シャンプーしている途中だったらしく、髪には泡が残っている。
しかも、ガスの安全装置が働いて、お湯が出なくなったらしい。
夫は、このままだと寒くて出られないから、安全装置の解除ボタンを押してきてほしいと言う。「まじか」

避難所の小学校までは、徒歩1分。
娘たちには事情を話し、先に行くように伝える。mダックスは、クレートの中で大パニックになっていた。

で、ガスの安全装置はどこ?右往左往。
見つかったけど、どうやるのか。
手順を書いた葉書大のプラスチックのカードが、ガスの復旧ボタンの脇に括り付けてあったので、その手順通りにやってみる。
初めてが本番、しかも自分しかいない(汗)
黒いキャップを外し、ボタンを押す。しばらく待って、ランプの点滅が止まったら、OKなのだが、うまくいかなかった。

家の前の通りを車が走っていく。避難してきた人たちだ。
徒歩の人もいる、リュックを背負っている人もいる。なんて準備のよい。

急いで戻り、夫に伝えに戻る。
「お湯は出ない!早く逃げよう!」

テレビの人は
「戻らないで!」「東日本大震災を思い出して!」と絶叫している。
その前を行ったり来たりする私。

義父にも声をかけながら、
唐草模様の特大風呂敷を広げて、二重の毛布2枚、義母の頭を守っていた座布団2枚と、床ずれ予防のクッション1枚を入れて縛る。

飲み物、パン、お菓子、スマホの充電ケーブルをバックに入れる。義父の紙パンツも。
夫は着替えたが、冷えたせいで震えている。
義父にも準備を促すが、嫌だと言う。うう…

夫は義父(夫にとっては父)を置いては行けないと言う。
後から行くから先に行けと言う。津波が来たら逃げるからって、もう(泣)
夫は義父に引っぱられ、私は夫に引っぱられる。
わが家の図式を見る思い。

津波てんでんこ。
「後から来てね」と言い、今生の別れになるかもしれないと思いながら、
ショルダーバッグを肩にかけ、大きな風呂敷包みを抱えて、避難所へと向かったのだった。



読んでくださってありがとうございます。
北陸の伝統工芸品をひとつ、ご紹介します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?