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no.16 義母、ショートステイへ行く

義母が退所後はじめて、5泊6日のショートステイへ行く。

ショートステイは、入所前に一度、利用したことがあるのだが、
そのときは「あんなところ、二度と行かない」と、
さんざんな言いようであった。

けれど、要介護5となった今は、どこへ行こうと、何泊しようと、義母から文句を言われることはないのである。

思えば、義母が特養に入所している間は、何も考えなくてよかった。
とくに、最後の方は、義母のことなど、ほとんど忘れてかけていた。
そんな私ですら、在宅介護が始まってからは一転、義母の存在が常に頭の片隅にある。在宅介護とは、そういうものなのだろう。

例えば、オムツ、パッド、おしり拭き、口腔ケアのスポンジは
あとどのくらいあるかな、とか。
介護食や栄養補助食品はまだあるかな、とか。
介護サービス料や医療費の請求書を確認して、支払い準備をする(口座振替、病院と薬局の支払いは現金)とか。
気の休まることはないのだ。
あたり前のことなのかもしれないが、これは、本当に大変なことだ。

在宅介護になって、3ヶ月が過ぎた頃、家族にも疲れが見えてきた。
そこで、ケアマネ氏に相談し、ケア計画にショートステイを入れてもらったのだった。

ショートステイは、利用する施設と個別に契約をする。行き先によって、
いろいろと流儀が異なるし、費用も違う。
今回はとなり町にあるお安めの施設を選んだ。

準備しなくてはならないものは、主に着替えである。
下着、パジャマ、普段着、くつ下をそれぞれ3日分。持ち物のすべてに記名をしなくてはならない。衣類に直接書くと滲んでしまうので、お名前シールを使うことに。100均へ行くと、入園入学準備のコーナーに、お名前シールがいっぱいあった。

なるべく簡単に済ませたいから、針や糸、アイロン、どちらも不要の、
ペタリと貼るタイプの名前シールを選んだ。洗って剥がれたら。また貼ればよいし。ふむふむ。

シールを2cmほどの長さに切り、名字と名前を2行に分けて書く。
名前用の油性ペンで、義母の名前を書いていく。
書きながら、「◯◯子って、誰がつけた名前なんだろう?」とか、
「義母は、幸せだったのかな」とか、考えたりしている。不思議な感覚。
そしてペタリ、楽である。衣類には1枚につき2か所貼った。

だんだん面白くなってきて、ついには、針と糸を出しw
バッグに名前を縫いつけた。子どもが幼稚園に入園した頃を思い出す。

もともと、計画にあったショートステイだったが、急遽、義父の入院と重なり、予期せず二人ともいなくなってしまった。
私と夫は、手持ち無沙汰になり、何をして良いか、わからなくなってしまったのだった。
いつかは、こういう日が来るのだろうけど。

ま、数日後には元に戻るのだから、慣れてしまうと、後が辛くなる。
なんだか、歩行者天国で、歩道を歩いているよう。
私たちは、自由なんだけど、自由になりきれない数日を送ったのだった。

在宅介護*観察日記『義母帰る』


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